便利ですが、一つ間違えば命に関わる危険もある「子ども乗せ自転車」。朝日新聞デジタルのアンケートには、乗せる際のポイントや交通ルールの周知、より安全な自転車の開発を求める声などが寄せられました。自治体による講習会や自転車メーカーの取り組みを紹介し、どうすれば子どもと一緒に安全に移動できるかを考えます。
子ども乗せた自転車転倒、都内で過去6年1300人けが
「抱っこで自転車」危険わかっていても 朝の送迎、切実
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乗り方指導、市が講習会 参加を条件に購入費用助成
子どもを自転車に乗せる場合の、正しい乗せ方や運転の仕方を知ってもらう取り組みもあります。
「抱っこは禁止されています。事故があった時、前にいく力が働き、お子さんがハンドルなどに頭を強く打ってしまう可能性があります」
今月3日、神奈川県厚木市の保健福祉センターで開かれた自転車講習会で、厚木署の津谷政哉巡査長は注意を呼びかけました。厚木市は、市民が幼児2人を乗せられる座席つき自転車を買う費用の半額(上限1万6千円)を助成しており、かわりに講習会参加を義務づけています。この日は親子約20人が参加しました。
津谷巡査長は、自転車の重傷・死亡事故は頭を打つケースが多いとして、ヘルメットをかぶらせる重要性を強調。子どもを自転車に乗せてからだと、バランスを崩して自転車が倒れることがあるため、乗せる前にかぶらせるよう呼びかけました。
また、子どもは2人までしか乗せてはいけないこと、スピードの出し過ぎに注意することなども説明。「自転車は、『車』の仲間です。これくらいだったらいいかなと自分勝手な判断はせず、左側通行などの交通ルールを守って安全運転に努めてほしい」と話していました。
説明の後、参加者たちは実際に子どもを乗せて自転車に乗り、指導を受けました。3歳と11カ月の子ども2人を乗せた石毛梢(こずえ)さん(31)は、「2人乗せると、かなり重く、ハンドルがぶれるのが怖い」。夫の克紀さん(35)は「電動アシスト付きは、最初のひとこぎで、思っていたよりもグイッとスピードが出る」と驚いた様子でした。
乗り方を指導した神奈川県自転車商協同組合の関戸浩さんによると、前後の幼児用座席に子ども2人を乗せる場合、先に後ろに乗せてから前に乗せるとバランスが崩れにくいといいます。降ろすときはその逆で、前の子を降ろしてから後ろの子を。「乗り降りさせる際は、子どもから目を離さないようにしましょう」
出発する際は、サドルにまたがってからハンドルロックを解除。電動アシストの電源を入れ、ペダルは真上と真下の中間くらいからこぎ出すといいそうです。(野村杏実)
車体と体「ハ」の字・空気圧注意 メーカーに聞く安全のコツ
子ども乗せ自転車は重量化が進み扱いが難しくなっています。国内大手の「ブリヂストンサイクル」(埼玉県上尾市)に対策を聞きました。
自転車を押しながら曲がるとき、重さに体を持っていかれ、危うく自転車ごと転倒しそうになるという悩み。車体と体の向きを平行にせず、「ハ」の字になるように歩くと、バランスが取りやすいそうです。
車体が重いため、スタンドを上げるのも一苦労です。多くの子ども乗せ自転車に取り付けられている接地面がコの字形スタンドは、角の部分を踏むと、てこの原理で簡単に立てることができるそうです。
バッテリー切れにつながるタイヤの空気圧低下も要注意です。電動自転車の場合、アシストされている間は空気圧の低下に気づきにくいといい、週に1度は確認することも、急なバッテリー切れを防ぐために重要だといいます。
また、海外ではベビーカーが取り付けられていたり、大きなかごが付いていたり、3輪の自転車が販売されていますが、国内メーカーでこうした自転車の開発がなかなか進まないのはなぜなのでしょうか。
2010年から、前2輪タイプの3輪の子ども乗せ自転車を販売している「ミムゴ」(福岡県粕屋町)の担当者は、その理由に道路交通法の規定をあげます。同法では、長さ190センチ、幅60センチ以下のものを「普通自転車」と定義し、「自転車通行可」の標識があれば、歩道を通行できます。この基準を超えると車道しか走れず、「メーカーとしては、基準の中で作らざるを得ない」と言います。同社が販売する3輪の子ども乗せ自転車も長さ168センチ、幅58センチ以下で作られています。同社の3輪自転車はラック式の駐輪場でも2台分のスペースがあればとめられる設計ですが、駐輪場が2輪の自転車を前提に作られていることなども、こうした自転車の開発を妨げていると言えそうです。
一方、「パナソニックサイクルテック」(大阪府柏原市)は、ベビー用品の国内大手メーカー「コンビ」(東京都台東区)と共同で、幼児用座席の乗り心地と安全性を追求した電動の子ども乗せ自転車を開発し、来月3日に発売予定です。60年以上培ってきた両社の自転車の技術と育児を支える技術を組み合わせて、より快適な子どもとの自転車での移動を実現することが狙いです。
幼児用座席の頭部分の両サイドにはコンビ独自の衝撃吸収素材を用いて転倒時の安全性に配慮。開閉ガードは、段差などの衝撃で幼児が顔をぶつけても痛くない柔らかい素材で作るなどの工夫がされています。(安藤仙一朗)
専用路・安全の徹底 もっと
アンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●「今は昔と違い、ママが便利さに慣れているのでちょっとの距離でも子連れで徒歩移動が面倒なんです。働いていたりして時間がないのも大きな理由ですが、主婦でも同じです。昔よりもスーパーもコンビニも近くにあります。これは仕方のないことで、ママの便利さを助ける仕組みを作りつつ、母親たちに事故の恐ろしさを伝え続ける必要があります。自動車は免許取得や更新の際に必ず講習があります。自転車はありません。交通ルールや危険性をうるさいほどに伝えることから始めるべきです」(神奈川県・40代女性)
●「親の安全運転とリスクへの意識が第一だと思います。どうしても子どもの小さい間は自転車の小回りと輸送性が必要で、私も子乗せに2人乗せていますが、ヘルメットとベルトは必ず着用し、交通ルール遵守を心がけています。交通ルールを守らない飛び出しや逆走自転車にも対処できるよう安全運転を心がけていますが、日々ヒヤリとすることがあります。子乗せは普通の自転車よりとっさの動きができないので、ルールを守らない暴走自転車が迫ってきても避けきれず、なのになぜかこちらが罵倒されることも多くつらいです。周りの方も安全運転をしてほしいです。自転車専用路は少し安心して走れるので、歩行者と自転車両方のため整備を進めてほしいです」(東京都・30代女性)
●「子どもを乗せての移動は禁止のしようがないので、おんぶの徹底しかないと思う」(大阪府・50代男性)
●「ルール上認められてなくて、危険とわかっていてもやる人はやると思う。その理由も人それぞれで上にあげた理由の他もたくさんある。リスクや安全運転の周知後、数年経ったら禁止として罰金制にして、取り締まりを強化する。それと同時に高齢者の手を借りて一時預かり施設や企業のサポートがしやすい仕組みを作るなどして、それによって税金が多少多く取られても仕方ないと思う。私は子供はいませんが、子供はとても大切です。子供が安全に過ごせる街になれば良いと思います」(神奈川県・50代女性)
●「子ども乗せ自転車は、重量やバランスのことで工夫や努力をしても安全性に問題が残ります。子ども乗せ自転車が現状よりも安全に走れるよう、自転車専用レーンを設置(狭い歩道を廃し、段差を減らす)し、ルールを守らせる(違法駐車の取り締まり)こと。道路行政は、複数の役所にかかわることがあり、大変なことだと承知していますが、子どもを守る町であるということは、選ばれる町になるということであり、人口が減る中で説得力を持つ主張になると考えます」(福岡県・50代男性)
●「前抱きして、後ろに乗せているのは非常に危ない。メーカー側の三輪車タイプの安定の良い物を開発するなどの工夫や、乗る側のマナー(乗せながらスマホをいじったり、子供を後ろに乗せたまま買い物に行ったり)も注意が必要。また、歩行者用、自転車用、車用と分けて使用できるスペースのある道路を今後増やしていくことも自治体や国の課題だと思う」(東京都・40代女性)
●「私は保育室を運営している保育士です。保育室にも前抱っこで自転車に乗ってくる方がいます。『何で抱っこなの?』と聞いたら『顔が見られるから』と。朝から夕方まで預けて急いでお迎えにきて、顔を見たいのももっともなことです。働かなくても3歳まで育児休暇がしっかりととれる社会にしていくべきです。そして近所の保育室に預けられなかったらファミリーサポートなどのベビーシッターなどに頼めるようにし、乳児(1歳くらいまで)の間は家で見てもらえるような仕組みができればいいと思う。今のままでは赤ちゃんが荷物のように運ばれていてかわいそう。後ろに乗せられて移動している幼児も本当は歩けるのに、急いでいるから歩かせない」(東京都・50代女性)
●「考えてみたらかなりアクロバティックですよね、二人(以上)乗りって。うちの地域は田舎なので車がないと生活しづらく、自転車に乗るなんてむしろイベント的な事でした。だから2歳違いの幼児を前後に乗せるなんてあまり無かったです。たまに乗せて怖い思いをしたわけですが、都会のママって慣れてるのかすばやいですね~、事故と隣り合わせだな、と思います。自転車って全体的に横着だな、と思うので道交法とか安全な乗せ方とかPTA等で講習しなきゃデス。乗ってた幼児もいつか成長して自転車を利用するから親子でしっかり交通安全教育を受けるべき」(三重県・40代女性)
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アンケート「子ども乗せ自転車、どうすれば?」を20日まで
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でも募集しています。