植物を原料とし、土にかえるプラスチックがある。器に加工する道を、福島の技術者が切り開いた。
世界31カ国の水族館関係者が11月、福島県いわき市に集まり、世界水族館会議を開いた。テーマの一つは海を汚染しているプラスチックの細かな破片だ。基調講演に立った地元の技術者が、土にかえる「生分解性プラスチック」について触れ、「各地で広げていくべきだ」と訴えた。
生分解性プラスチックは堆肥(たいひ)に入れると、微生物によって、水と二酸化炭素に分解される。トウモロコシなどのでんぷんを原料とする「ポリ乳酸」は、生分解性プラスチックの一種だ。
講演した技術コンサルタント、小松道男さん(55)は、そのポリ乳酸を食器などに加工する技術を開発。政府主催の「ものづくり日本大賞」で、本年度の最高賞に選ばれた。
ポリ乳酸は、目新しい素材ではない。環境をテーマに愛知万博が催された2005年、当時の小泉純一郎首相が国会演説で言及している。最大の課題は、加工の難しさだった。
プラスチックを加熱して柔らかくした後、金属製の金型に押し込んで形をつくる。冷えて固まるのを待って、金型からひきはがす。「射出成形(しゃしゅつせいけい)」と呼ばれる、一般的な加工方法だ。
しかし、普通のプラスチックが冷えると徐々に固まるのに対し、ポリ乳酸は一定の温度で一気に縮む。金型にくっつきやすく、加工が難しかった。
小松さんはかつて、電子部品大手のアルプス電気に勤めていた。金型を長年つくってきた経験を生かし、新しい加工方法を編み出した。
金型に赤外線のセンサーを入れ、ポリ乳酸の温度を緻密(ちみつ)にはかった。固まり始めるぎりぎりのタイミングを見極め、金型との間に空気を注入。ポリ乳酸を金型からきれいにはがすことに成功した。日米欧で計38の特許を取得。天然素材を由来とする「人にも環境にも優しいプラスチック」の可能性を広げた。
小松さんの加工技術が使われている代表例は、乳児用食器セットのiiwan(イイワン)。技術を聞きつけた愛知県新城市の金属部品メーカー、豊栄工業と共同で開発し、7年前に売り出した。
プレートやマグカップなど食器6点のセットで消費税込み8964円。安くはないが、お祝い向けに人気が出た。百貨店やネット販売で月300万円程度を売り上げるまでになった。
ポリ乳酸の残る課題として、生産コストや耐熱性がある。「iiwan」は、電子レンジに長時間かけ過ぎると、焦げたり溶けたりする可能性がある。
ポリ乳酸の流通量は国内のプラスチック全体の0・1%以下。課題を乗り越えれば伸ばせる余地は大きいと小松さんはみる。
生まれも育ちも福島県いわき市。奨学金を得て、地元の福島高専(いわき市)を首席で卒業した。アルプス電気は、バブル崩壊後の1993年に希望退職で去った。科学技術者の国家資格である「技術士」の資格をとり、ものづくりの中小企業などに技術面の助言をする事務所を営んできた。
「自分のように恵まれない家庭に生まれても、勉強すれば無限の可能性があることを伝えたい」。母校の高専の教壇に週1回、22年間立ち続ける。
そんな小松さんは、2020年夏の東京五輪を見据える。世界中から人が集まり、プラスチックごみが大量に出そうだ。課題の解決に貢献しようと、新たなパートナー企業を探す。「技術の生かし方を、一緒に考えてくれるとうれしい」(小泉浩樹)