体内に入れる医療機器の販売に必要な手続きのハードルが、日米欧で異なる実態が国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の調査でわかった。欧州連合(EU)が先行して承認した機器はリコール率が高かった。国境を越えた汚職の実態も明らかになり、各国政府の連携した取り組みが求められている。(飯島健太、軽部理人)
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EUは体に入れる医療機器のうち、不具合があった場合に影響が大きい心臓ペースメーカーや人工股関節など高度な機器の承認が、他の先進国よりも「緩い」と指摘されてきた。
ICIJの調査によると、日本や米国は公的機関が機器の販売や使用の承認を最終決定するのに対し、EUでは民間の第三者認証機関が同じ役割を担う。認証機関は民間のみで、ICIJは、メーカーからの審査依頼の「受注」で運営費が賄われていると批判。メーカーと認証機関のなれ合い体質は否定できないとし、公正性に疑義を呈した。
ICIJの調査によると、EUで認証が得られた機器は、サウジアラビアのほか、インド、フィリピン、ほとんどの南米諸国など多くの発展途上国で簡単に販売できる。このうち、独自の認証制度がある国も、EUで安全性が証明された以上、より厳しい検査は課されないとされる。
米国での医療機器などの承認を行う食品医薬品局は12年5月、EUで安全性が認められながら、米国が未承認とした機器を報告書にまとめた。同局はこの報告書で「EUでは利益重視の民間認証機関により、科学的な証拠がほぼなかったり、治験を経ていなかったりするのに『安全』と認められたケースがある」などと指摘した。
英医学誌BMJは16年6月、米とEUの双方で承認された医療機器206種の安全性を比べた結果を公表。EUが米に先行して承認した機器が6割超を占めた。リコールの割合もEUが先行して承認した機器の方が高かったという。
こうした承認制度の違いなどを巡る議論について、欧州委員会はICIJの取材に「法的な枠組みの違いはさらに詳しい議論が必要だ」と回答した。ただ、危機感もあるとみられ、機器の認証過程で専門家の意見を求めることを定めた新しい規制を20年に施行する。
英オックスフォード大学のカール・ヘネガン教授は「今回のように規制を少し変えるだけでは安全性の向上を意味しない。単なる煙幕だ。施行後の機器はより安全ですよ、という印象を与えるだけだ」と述べ、実効性に疑問を投げかける。
股関節埋め、骨が変色「穴だらけチーズ」
ドイツ南西部フライブルクの近郊。ワイナリー(醸造所)で働くユルゲン・トーマさん(61)は2005年6月、米ジンマーバイオメット(当時ジンマーホールディングス)社製の金属製人工股関節を入れる手術をした。医者から「革新的だ」「他のどんな商品よりも素晴らしい」と薦められたためだった。
だが、術後すぐに、体中に痛みを感じるようになった。
診察を受けると、機器の金属がはがれ、破片が骨に食い込んで感染症を引き起こしていた。09年にこの機器を除去する手術を受けた。周辺の骨は変色し、「まるで穴だらけのチーズだった」という。
ICIJの調査によると、トーマさんが装着した人工股関節は、03年にEUで承認された。一方、米国では安全基準を満たしていないとして未承認だった。
トーマさんは10年、ジンマー…