天平彫刻の傑作とされる奈良・興福寺の国宝阿修羅像(734年、脱活乾漆造〈だっかつかんしつづくり〉)の真ん中の顔について、AI(人工知能)を使って分析したところ、「悲しみ」と「喜び」という相反する表情が含まれていたことが分かった。奈良大学の関根俊一副学長(美術史)らのプロジェクトチームが4日、大阪市内で発表した。最新技術を応用し、200体を超える仏像の写真から表情を数値化する初めての試みで、注目されそうだ。
プロジェクトは関根さんの監修を受け、昨年度から計18人の学生によって行われた。人間の表情を「喜び」「悲しみ」「怒り」「中立」など八つの指標で数値化するマイクロソフト社の感情測定技術を使って、200体以上の仏像の写真について分析した。
その結果、多くの仏像では特定の感情がない「中立」の数値が最も高かったが、興福寺の阿修羅像の表情については「中立」がほかの仏像よりも低く、より人間の表情に近いことが分かった。また、「悲しみ」と「喜び」を示す数値も含まれ、正面右側から見た表情には「悲しみ」の数値が強くなる傾向にあり、左側からだと「喜び」の数値が「悲しみ」より高くなる写真もあった。年齢は23歳という分析結果だった。
関根さんは「仏像の表情をどう見るかはその人次第だが、数値化することで今後の仏像の研究にも役立つのでは」と話す。(渡義人)