旅や自然、酒を好んで詠んだ宮崎県出身の歌人、若山牧水(1885~1928)の未発表の短歌1首が見つかった。牧水の没後90年を機に、宮崎市の収集家(故人)が201点の遺墨や書籍を宮崎県立図書館(宮崎市)に寄贈。このうちの掛け軸1点が未発表作とわかった。
見つかった歌は「降ればかくれ 曇ればひそみ 晴れて照る かの太陽を こころとはせよ」。
依頼者から求められて詠んだ作品とみられ、掛け軸には「大馬鹿に奈る法を詠めと言はれて」と、牧水による添え書きがある。
県立図書館が9月、牧水の孫で若山牧水記念館(静岡県沼津市)の榎本篁(むら)子館長に鑑定を依頼し、牧水直筆と確認された。牧水の長男、若山旅人(1913~98)が24年ほど前、掛け軸を納めた木箱に「全集にも、また全歌集にも日記にものこされておらず未発表のままうづもれて居たこの世に一首のみと云(い)う貴重な一首」との箱書きを寄せている。短歌は大正11(1922)年ごろの作品とみられるという。
牧水に詳しい伊藤一彦・県立図書館名誉館長は「皆に熱、輝きを与える太陽を主題にしており、自然を愛した牧水の代表歌に入れたい一首」と絶賛している。
寄贈した収集家は今年5月、がんで80歳で亡くなった宮崎市清武町の元県立宮崎病院整形外科部長の小林邦雄さん。牧水の自然主義を愛し、亡くなる直前までの約30年間、東京・神田の古本屋街に通ったり、オークションで落札したりして作品を集めたという。
10日に記者会見した遺族代表で小林さんの長男、剛(たけし)さん(46)=横浜市=は「県立図書館で牧水にかけた亡父の情熱や思いを多くの方に紹介いただき、広く鑑賞、閲覧の機会を設けていただければ」と話した。
県立図書館は、寄贈された作品類を「小林邦雄コレクション」と命名。11日から来年1月20日まで、未発表作を含む遺墨や書籍などを展示している。(菊地洋行)