世界トップレベルの競泳選手が、国際水泳連盟(FINA)を提訴する異例の事態となっている。「不当な圧力を受けた」と主張しているのは2016年リオデジャネイロ五輪3冠で、「鉄の女」と呼ばれたカティンカ・ホッスー(ハンガリー)らプロ選手3人。両者の間に何が起きたのか。
ホッスーの代理人が米カリフォルニア州の連邦地裁への提訴を発表したのは、25メートルプールで競う世界短水路選手権(中国・杭州)開幕直前の7日。発端はイタリア・トリノで12月に開かれる予定だったプロ選手を対象とした「国際水泳リーグ(ISL)」が中止になったことだった。
代理人は報道機関に宛てた発表文のなかで、「FINAがこの大会の開催を認めず、非公認の賞金大会に参加した場合は五輪への出場を禁じる可能性があると、選手に圧力をかけた」と主張。ホッスーは「私は常に水泳をよい方向に導くことに情熱を捧げている」とコメントした。
世界短水路選手権に出場中のホッスーに12日、朝日新聞記者が理由を尋ねると、「とても長い歴史がある。それについてはあとで話す」と多くを語らなかった。ただ、背景には、プロ選手としての権利を守ろうとするホッスーとFINAの対立があるとみられる。
FINAは昨年、短水路で競う賞金大会のワールドカップ(W杯)で「改革案」を掲げ、個人では4種目にしか出られないように制限した。リオ五輪で13レースに出るなど、多種目に強く、W杯でも多額の賞金を獲得してきたホッスーはこれに強く反発した。
海外の水泳事情に詳しい元日本水連広報委員の望月秀記さんは「そもそもW杯に米国の有力選手が参加しなくなり、ほとんどのレースでホッスーが勝つようになった。FINAは賞金が1人の選手に集中するルールを規制したかったのでは」とみる。ISLが立ち上がったのにも、そうしたFINAの思惑にプロ選手たちが反発したからだ。ホッスーは昨年から「FINAは選手を無視している」(AFP時事)などと声を上げてきた。
ホッスーの提訴について、FINAのフリオ・マグリオーネ会長に杭州で尋ねると、「彼女はとてもよいスイマーだ。ただ、すべての選手の願いをかなえることはできない」とだけ話した。(照屋健)