シニアのトップ12人だけが出場するはずだった大会に、高校生2人が交じっていた。11月23日にあった体操の個人総合スーパーファイナル(SF)。強化を目的に今年から新設された大会に、日本体操協会が推薦で送り込んだ。
水鳥寿思(ひさし)男子強化本部長が明かす。「シニアで実績がない選手を推薦したのは異例中の異例。東京五輪が迫る中、可能性のある選手は入れるべきではないかとなった」
背景に協会の危機感がある。今秋の世界選手権で、中国、ロシアに後れをとり、金メダルなしに終わった。
SFでは、大阪・清風高3年の三輪哲平が期待に応えた。今夏の高校総体王者は、総合でシニアの大会に出るのは初めてで「すごく緊張した」と言いながら、白井健三(日体大)に次ぐ2位に入った。
「一筋の光が見えた」。水鳥強化本部長は喜びを隠さなかった。
三輪本人も大きな収穫を得た。結果だけではない。「きょう、先輩方にはミスがあった。自分はいい演技をしてもこの点数。まだまだ足りない」。トップレベルを体感したからこその刺激だ。
それを聞き、今夏まで高校野球担当として取材した大阪桐蔭高を思い出した。5月26日、チームは春の近畿大会1回戦に勝ったその足で、バスで横浜へ向かった。翌日、昨秋の大学日本一チームである日体大と練習試合を行った。
高校生が大学生と練習試合をするのは珍しい。大会中に遠征してまでというのは聞いたことがない。西谷浩一監督の狙いはこうだ。
「『最強世代』とか呼ばれ、高校生には負けないだろうという雰囲気が周囲にあって、チームに慢心が漂いかねないと感じていた。大学王者とやらせてもらうことで、原点である『向かっていく気持ち』を思い出させたかった」
大学トップの走塁や打撃を目の当たりにした選手たちは、翌日から全員が木製バットで練習をし始めた。監督は「春夏連覇へ向けて大きな練習試合だった」と振り返る。
三輪が求める結果を出せるかは、これからだ。次は、世界レベルで何を感じ、得るか。SFの2位により、来春はW杯個人総合シリーズの1試合に出られる。「憧れ」という内村航平(リンガーハット)との練習も実現するだろう。
前例にとらわれず若い才能に「刺激」を与え、選手はどう応えるか。競技を超えて大切なことだ。(山口史朗)