外国出身の子供たちにとって、日本の新年のあいさつ、「年賀状」を書くのはなかなか大変。奈良の夜間中学では、主に外国から来た生徒たち向けに年賀状の書き方を学ぶ授業が行われた。教諭や友人に宛てて、初めて書いた「明けましておめでとうございます」。生徒一人ひとりの思いが新年に届けられる。
今年も残り少なくなった12月中旬、奈良県の橿原市立畝傍中学校夜間学級(畝傍夜間中学)の教室に、生徒ら14人が集まった。書写の授業が始まった。
「年賀状を書いたことがある人は?」
日本郵便近畿支社スーパーバイザーの山﨑(やまさき)順子さん(67)が尋ねると、手を挙げたのは3人。うち1人は手を小さく挙げて、首をかしげた。「全員書けるようになりますから、ご安心ください」と声をかけた。
山﨑さんは手紙やはがきの普及のために、学校の出前授業で書き方を教えている。夜間中学での授業は初めて。通常のはがきと年賀はがきの違いや、宛名の書き方から説明した。
その後、年賀はがきの表面に住所や名前を書く作業がスタート。生徒らは教室の前にはられたお手本の模造紙と手元のはがきを交互に見ながら、鉛筆で下書きした。
「住所を書くのに『奈良県』はいらないですか?」「難しい」など、教室のあちこちで声が上がる。慣れない漢字に苦戦する生徒たち。ボールペンで清書し、1時間かけて仕上げた。
次に裏面。山﨑さんが「『明けましておめでとうございます』は決まった言葉なので、文末にマルはいりません」と言うと、教室からは「おおー!」と驚きの声。分からない漢字を教諭に尋ねたり、隣の人に相談したり。30分ほどで書き終えた。
最後に、自分の名前の最初の文字が彫られたゴム印を押し、完成。自身の顔写真が入っていたり、母国語でメッセージが書かれていたり、それぞれの思いがつまった力作が出来上がった。
10月に入学したフィリピン育ちの松田繁君(16)は年賀状を書くのは初めて。「漢字が難しかったけど、初めて書いた年賀状は面白かった」と、日本語と英語を交えて話した。
中国出身で、同じころから松田君と共に学んでいる小埜(おの)拓也君(17)は「初めてだから楽しいけど、難しい」。2人ともこの日は夜間中学の教諭に宛てて書いた。自宅でも友人やほかの教諭に向けて書くつもりだ。
夜間中学の授業を終えて、山﨑さんは「一生懸命文字を書く姿に感動しました。何を書きたいかじっくり考えながら書いている姿が美しかったです」と話していた。(高橋杏璃)