レスリング女子で五輪3連覇を果たした吉田沙保里(36)が8日、現役引退を表明した。最後の五輪金メダルとなったロンドン大会を取材した記者が、吉田の強さを振り返った。
レスリング吉田沙保里が引退を表明 五輪3連覇を達成
「沙保里へ。長い間、本当にお疲れ様」 澤穂希さん
2015年の夏。私は岐阜県のゴルフ場で吉田とバッタリ会った。懐かしい再会だった。
12年にロンドンで伊調馨とともに女子レスリング史上初の五輪3連覇を見届けた直後、私は福岡市へ転勤。3年ぶりの偶然に、何はともあれ「久しぶり」と声を掛けたのだが……。
返ってきた吉田の第一声に面食らった。「スコアはいくつですか」。これが負けず嫌いで鳴る世界女王の心持ちかと、内心うなった。私のスコアを聞くと、彼女は安心したように笑った。
ロンドン五輪の頃は、吉田にとって心と体の過渡期だったと思う。
連勝を重ねるにつれて研究され、相手のじらすような防御一辺倒の戦い方が増えた。30歳に近づき、圧倒的な勝ち方は減った。期待に応えようとする責任感が重圧となって自分を苦しめ始めたのもこの頃だ。
貧血や体調不良が頻発するようになった。それなのに、周囲の「3連覇」の合唱に応えるように五輪の旗手を引き受けた。「旗手は勝てない」という不吉なジンクスがあったにもかかわらずだ。
五輪前の国際大会で4年ぶりに負けた。「そんなザマで旗手をするつもりか」と敗戦直後に知人に怒鳴られたが、吉田はやめなかった。意地もプライドもあったろう。だが、逆境だからこそ乗り越えてやろうとする気持ちが一番勝ったのだと今も思う。
負けず嫌いと責任感。二つの武器を持つ吉田が、これからどんな舞台で活躍するのか期待したい。(山田佳毅)