2016年7月26日に相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件から2年半。障害者の親や家族の立場から事件を考える集会が27日、同区で開かれた。障害者が暮らす場として大規模障害者施設は必要か、地域に移行するべきか。意見が対立しがちな論点について、約3時間半にわたって議論をかわした。約200人が参加した。
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同園をめぐっては、事件から間もない時期に県が現地での建て替え方針を打ち出した際、障害者団体などからは、障害者の暮らす場を施設から地域に移していくべきだという声もあがった。その後、相模原市と仮移転先の横浜市に施設をつくる形で園を再建する方向となり、園ではいま、入所者の意向を反映して今後の暮らす場を決める「意思決定支援」が進められている。
集会ではこうした経緯を踏まえ、園の家族会の大月和真会長(69)が家族の近況を紹介した。昨年12月に茶話会を開き、地域生活への期待や不安を語り合った際、「個室で、異変に気づかないことはないのか」「意思決定支援で家族の意見が無視されることはないか」との不安の声が出る一方、「(地域での生活の場として想定される)グループホームを見学したい」「本人の気持ちを大切にしたい」などと前向きな意見も出たという。
大月会長は「施設か地域か、全員がグループホームへという議論ではなく、いろいろな生活の場があることが大切だ」と話した。
家族会前会長の尾野剛志さん(75)は、息子(45)が今も横浜市港南区の仮園舎に暮らす。事件後、施設から地域への移行を求める声に反発を感じたと語った。「施設が山奥で閉鎖的というのは昔の話だ。重度の人を受け入れるグループホームはない。施設は絶対に必要だと思った」
だが事件をきっかけに早稲田大の岡部耕典教授らと知り合い、岡部教授の息子など、複数の重度障害者が、訪問介護を受けてアパートで自立生活をしていることを知った。「施設には施設の役割がある。だが施設にこだわる必要はない」と思い始めた。
いまは、息子が数年後には自立して、アパートで暮らせるようになることを目指し、準備を始めている。
尾野さんは「一般の人と同じようにアパートで暮らすのが本当の幸せなのかもしれない。ただし決めるのは本人です」と語った。
岡部教授も登壇し、「グループホームありきの地域移行に疑問を持っている」と語った。国が地域移行を促すなか、グループホームは大型化する傾向にあり、住居らしさが損なわれて入所施設に近くなっていく可能性があるという。
岡部教授の息子はアパートで自立生活をしているが、「障害が軽いのでしょう」と信じてもらえないことも多い。暮らしの様子を描いた映画「道草」が近く公開される予定で、「多くの人に見てもらい、こういう暮らしができると知ってほしい」と語った。
自閉症の息子がいるRKB毎日放送記者の神戸金史さん(52)は、保育園建設にも反対運動が起こる現状に触れて、地域でグループホームなどをつくる難しさに言及。「理念だけではつくれない。地域の人に存在を認めてもらい、隣の人に知ってもらうことが大切だと思う」と語った。(太田泉生)