自閉症など発達障害の子どもが進学や進級でつまずかないために、学校にはどんな支援が求められるのでしょうか。専門家は「保護者とよく相談して計画を立て、その子に合った切れ目のない指導が望ましい」と指摘します。
三重県に住む自閉症の男児(7)は2017年春、公立小学校に入学した。障害のある子どもが専ら学ぶ特別支援学校ではなく、地域の小学校の中にある特別支援学級を両親が望んだ。「友達から刺激を受けて成長できる」と母親(36)は喜んだが、学校生活が始まると戸惑うことが増えた。
自閉症は発達障害のひとつで対人関係や社会性をうまく築けず、言葉の遅れ、行動や興味の偏りが特徴だ。男児の担任は30代で、特別支援学級を担当して3年目だった。男児は給食の好き嫌いをとがめられ、「おかずを食べるまでご飯はあげない」と言われたり、持参した幼児用箸を使うのを禁止されたりした。
国語や算数は、ゆっくり復習に重点を置いて基礎を身につけさせてと母親が要望したが、担任は「通知表をつけられない」と先に進めることを優先。男児は授業に集中できないときなどに、「それじゃ立派な2年生になれないね」と教諭に言われて傷つき、「なれないね、僕は」と繰り返したことも。思いが伝わらないストレスからか、壁に頭を打ち付けるようになった。
母親は「苦手なことをわがままと受け取られるのがつらい」。特別支援学校の方が伸び伸びと過ごせたかも、と思い悩む。
就学前は障害児療育施設に通い、思い通りにならないと職員や友達にかみついていた。職員たちは「何がいやなの?」「どうしたいの?」と根気よく向き合った。信頼関係が生まれ、乱暴な行動は減った。
職員は保護者と密に連絡を取り合い、一人ひとりの支援計画を立て、発達に応じた目標や支援の方法を共有していた。母親は「ありのままを受け入れ、できることを最大限に伸ばしてくれた」と振り返る。
文部科学省は障害がある子の教育について、乳幼児期から中学校まで一貫した個別指導計画を作り、保護者や療育施設、医療機関と連携するよう求めている。
だが、男児の小学校では教員だけで指導計画を作り、保護者と共有していなかった。教育委員会の担当者は「今後は保護者の意見や要望を踏まえ、全職員で支援のあり方を共有し、改善したい」と話す。
引き継ぎシート 教員と保護者で作る
文科省によると17年度、小中学校の特別支援学級に在籍した自閉症・情緒障害の子どもは計11万452人で、10年前の約3倍。発達障害の子らを進級、進学時、途切れなく支援することが課題になっている。
和歌山県教委は18年度、市町村や学校ごとに異なっていた個別支援計画の様式を県内の小中学校、特別支援学校で統一。「つなぎ愛シート」と名付けて教員と保護者がともに作り、支援の履歴を引き継いでいる。「目標や手立てが明確になり、継続して支援しやすくなった」との声が教員から上がっているという。
大阪府高槻市では、専門教員10人の「リーディングチーム」が小中学校を巡回指導したり、年間1千人以上の教員が研修で実践的な指導法を学んだり。府内の大阪狭山市や摂津市も同様の取り組みをしている。
「発達障害の子への支援は自治体や学校、教員により差が大きく、進級や進学でつまずく子も多い。特性を理解し、その子に応じた支援をするのが望ましい」。元特別支援学校教員の山根弘子さん(74)は指摘する。退職後、神戸市で発達障害の子が通う教室を14年まで運営。「かがやけ!ASDキッズ 支援教室『ほっと』の実践録」の著書がある。
熱心な指導が子どもを苦しめる場合もある。「箸を上手に使えなくても、楽しんで食べることが大切。教員が勝手に決めたルールや文化を押しつけてはいけない」。言葉で理解するのが難しいなら絵を描いたカードで教える、集団が苦手な子は個別に指導する、といった工夫が必要だという。(小若理恵)