イスラエルとの紛争がイメージされがちなパレスチナ自治区で、IT分野を中心とした起業の波が起きている。その潮流を担うのは、ハングリー精神にあふれ、「援助より仕事」を求める若者たちだ。高い教育水準や良質な人材に注目し、日本企業を含む外資もビジネスの可能性を探り始めている。
自治区のガザ地区で生まれ育ったパレスチナ人のIT企業社長の男性(37)は2005年、24歳のときに仲間と2人でソフトウェア開発やIT人材開発の会社を立ち上げた。その2年後、イスラム組織ハマスのガザ制圧を受けてイスラエルが進めた封鎖強化により、輸出入の道はほぼ閉ざされたが、「ネットなら世界とつながる」との考えを貫き、150人以上の従業員を擁する会社に成長させた。いまは政治的には敵対するイスラエルの企業の仕事も請け負う。男性は「我々に必要なのは国際社会の援助ではなく、子どもたちの未来をつくるための仕事だ。安定した雇用と生活は長い目で見れば、中東和平にもつながる」と言う。
男性の会社と協働するのは、イスラエルのハイテク大手メラノックスだ。同社幹部のデービッド・スラマ氏は「イスラエルではIT人材が1万人不足している。ガザの人材は優秀で、新しい技術を貪欲(どんよく)に学ぼうとする」と語る。同社は16年、男性の会社にソフトウェア開発などを委託。すでに25人のパレスチナ人技術者を抱えており、今年は50人規模に倍増する計画だ。パレスチナ人技術者の人件費は、イスラエル人の半額以下の2千ドル余り(約22万円)にとどまるとされ、自治区のヨルダン川西岸地区でも100人以上のパレスチナ人技術者に仕事を頼む。
自治区のうちガザ地区は、東京23区の6割ほどの土地(365平方キロメートル)に約200万人が暮らす。若者の大学進学率が5割を超えるなど優秀な人材が豊富だが、18年の失業率は過去最高の53%に上っており、労働者の賃金も低い状態が続く。一方で、世界銀行によると、ガザ地区とヨルダン川西岸地区で設立されたITなど技術系の新興企業は、09年の約20社から15年には約140社に増加した。11年以降は自治区の新興企業を支援する団体の発足が相次いでおり、米グーグルなどが関与して米ハーバード大やマサチューセッツ工科大で開発やビジネスを学んだ米国人の経営専門家らがパレスチナ人に起業ノウハウを伝授するプログラムもある。
こうした動きを背景に、ガザの…