戦後の古代史研究をリードし、遺跡の保存運動にも力を尽くした大阪市立大学名誉教授の直木孝次郎(なおき・こうじろう)さんが、2日に老衰で亡くなっていたことがわかった。100歳だった。葬儀は近親者で営んだ。喪主は長女東野美穂子さん。
1919年、神戸市生まれ。京都帝国大学(現京都大学)卒。大阪市立大学、岡山大学、相愛大学などの教授を歴任した。
戦前の歴史観の原典となった日本書紀や古事記への史料批判を通じ、実証を重視した古代史研究を進めた。研究対象は幅広く、古代氏族や天皇制などについて論文を数多く発表。1964年には、古墳時代に大阪の河内平野に台頭した勢力が、奈良の大和盆地を拠点とした政権を倒し、新たな政権を打ち立てたとする「河内政権論」を提唱し、注目された。
大阪市の難波宮(なにわのみや)跡など全国の重要な遺跡の保存や検証に積極的に取り組んだ。89年に大阪文化賞を受賞したほか、2000年には文化財保護の活動を顕彰する和島誠一賞の第1回受賞者に選ばれた。03年にはその幅広い活動に対し、井上靖文化賞が贈られた。
万葉集にも関心を持ち、自身でも歌集を出したほか、晩年には、海軍士官として終戦を迎えた戦争への思いを朝日歌壇に度々投稿した。戦後70年たった15年に入選した「特攻は命じた者は安全で命じられたる者だけが死ぬ」は、朝日歌壇賞を受賞した。
著書に「日本古代国家の構造」「日本古代の氏族と天皇」「古代河内政権の研究」など。