かつて本や新聞、雑誌から名刺まで印刷の主流だった「活版印刷」の魅力を見直す動きが広がっている。活版印刷所を舞台にした小説や、付録雑誌のミニ印刷機が人気を博し、活版印刷機を復活導入した印刷所も。紙の凸凹や文字のかすれ、書体のぬくもりなど、現代の印刷にない活字の味わいが新鮮に映るようだ。
埼玉県川越市の桜井印刷所で1月末、活版印刷機のお披露目会が開かれた。1924(大正13)年創業の老舗。現在は、新聞印刷などにも使われる「オフセット」の印刷機と、電子化された「オンデマンド」の印刷機が稼働するが、これに加え、約30年前に処分して以来の活版を再導入した。
活版印刷は昭和のころは印刷の主流だったが、オフセット印刷などに押されて急速に姿を消した。再導入した桜井理恵社長(38)は「印刷業界はIT化やデジタル化の波を受け、厳しい状況にある。用紙やインキ代の値上げもあり、これまで以上に印刷物に付加価値を付ける必要がある」と話す。
その一つが、今回の活版印刷機の再導入だという。
同印刷所は、作家ほしおさなえさんの小説「活版印刷三日月堂」のモデルの一つとされる。祖父から受け継いだ川越の小さな印刷所を舞台に、街の人々との心温まる物語が反響を呼び、1巻は8万6千部のヒット。シリーズ化し、昨夏刊行の4巻で累計20万部を超えたと発行元のポプラ社。
この小説に感動し、「自分たちも活字を拾って印刷する体験をしてみたい」と付録雑誌を企画したのが、学研の科学系ムック「大人の科学マガジン」の吉野敏弘編集長(43)だ。編集部員は活版印刷を知らない世代。複数の活版印刷所に通って試行錯誤し、簡単に使えて丈夫な「小さな活版印刷機」(税込み3780円)を2017年冬に発売すると、事前のネット予約で話題になり、初版2万部の発売前に3万部の増刷が決定。累計7万5千部を発行している。
「予想以上に活版印刷好きの人…