宇都宮大学(宇大)の名を冠した焼酎「宇大浪漫」。これまでは県内の一部での販売に限られていたが、昨年から全国で流通が始まった。製造元の栃木県那珂川町の「白相(しらそう)酒造」は県内で唯一、麦や芋の本格焼酎を造る酒蔵。商品開発に熱心な4代目が意欲的な取り組みをしている。
「宇大浪漫」は2007年、白相酒造が大学側と連携して開発した。原料は真岡市にある同大農学部の付属農場で作られた麦と芋で、全部で3種類ある。ボトルの色で分かれていて、麦焼酎はシンプルな味わいの「白」と、飲み口の軽さにこだわった「青」の2種類。「赤」は芋焼酎で、クセのない香りが特長だ。学生でも買い求めやすい1300円前後という価格もうれしい。
誕生のきっかけは、宇大の学長が生産を直談判したことだった。産学官連携でのブランド商品開発に取り組んでいた宇大が、農場で採れた作物を生かした焼酎づくりを考案。4代目の白相淑久社長(68)は、学長自ら足を運ぶ熱意を受けて、さっそく付属農場の二条大麦で試作した。元々は1種類の予定だったが、白相社長が「焼酎を飲み始めたばかりの学生でも楽しめるものも」と配慮して、2種類の麦焼酎を生み出した。
美しいボトルにつくラベルは、教育学部で美術を学ぶ学生がデザインした。好調な売れ行きを受け、翌年には食用に栽培されていた「ベニアズマ」を使った芋焼酎の赤も誕生した。
当初は大学構内や関連のある一部の店に限って販売してきたが、昨年、大学が関連商店以外での販売を許可。県内や近隣県での販売も始めていて、この時期は入学や卒業の記念贈答品として人気だという。白相社長は「『宇大浪漫』を通じて、農業に力を入れている宇大のことを全国に広めたい」と話す。
そもそも、日本酒文化が浸透している栃木で、なぜ焼酎造りに励んでいるのか。白相酒造は明治40年に創業した古参の蔵だが、本格的に焼酎造りを始めたのは戦後のこと。戦時中に飛行機の燃料にバイオ燃料を使えないかという研究にも取り組んでいた3代目が、そこで得た知見を生かし、麦や芋を使った焼酎造りを始めたというのだ。
先代の遺志を継いだ4代目は「栃木は日本一の大麦の産地なのだから、使わないともったいない。芋も関東地方では食用のベニアズマがたくさん生産されている」と地産地消にこだわった焼酎造りを営む。現在の日本酒の主力商品はイチゴの花酵母を使ったものだが、酵母自体の開発にも携わってきた。
酒蔵で手がける焼酎の特長は、芋や麦など原料の特性がしっかりと残ること。トウモロコシやギンナンで仕込むと、素材の甘みが感じられる仕上がりになるという。白相社長は「焼酎の酒蔵として責任を果たしていきたい。焼酎の本場の九州にはない、関東のよさを生かした酒を造っていきたい」という。(若井琢水)
◇
白相酒造 那珂川町小川715の2。明治40年に農業から転身して創業した酒蔵で、万人受けする軽めの飲み口の酒が特長。「松の井」「御用邸」といった日本酒だけでなく、県内で数少ない本格焼酎造りにも取り組む。栗や山椒(さんしょう)といった変わり種の焼酎も造っている。電話は0287・96・2015。