ゆったりしていて可愛らしい様子を表す「ゆるカワ」。女性のファッションや人気キャラクターにも多用される現代語だが、これをキーワードに日本の古美術を見直そうという企画展示が福岡市早良区の市博物館で開かれている。
展示されているのは、浮世絵師・歌川広重など江戸から明治時代にかけての版画や肉筆画約20点。丸みを帯びたシンプルなタッチで、ウサギやシカといった動物をカラフルに表現した作品「鳥獣略画式」。まさに王道の脱力系で、小さな目に淡い色といった「カワイイ」デフォルメが一杯だ。友人が読み上げた動物名を、ささっと描いたという。
着物姿の女性が猫と戯れたり、寝転んで本を読んだりする作品「人物略画式」もゆるゆる。手を口に当てておしゃべりに興じる構図もあり、どこかオシャレだ。
うっかり太鼓を海に落とし、雷を落とせなくなって慌てて拾い上げようとする雷神や、天空に輝く月に手を届かせようと頑張る猿を描いた、どこかほんわかした作品も。侍に追っかけられる魚をくわえたどら猫の先に、なぜか制作中の仏像が鎮座するかなりシュールな作品もある。
極め付きは、剣豪・宮本武蔵を描いた作品。だらんとした衣をまとい、2本の木刀を手に突っ立っている様子は「柔よく剛を制す」とは言え、気が抜けたコーラのよう。大丈夫? それでも、衣の線や木刀の塗りは丁寧な筆致。「ふざけてなどいない!」とおしかりを受けそう。
末吉武史・主任学芸主事は「ゆるカワは『洒脱(しゃだつ)』の境地と言え、日本美術に独特のもの。既成概念にとらわれず、自由に楽しんでほしい」。5月6日まで。(成沢解語)