カニアナヤブカという魚の血を吸う蚊がいる。岐阜大の三宅崇准教授(生態学)らのグループが、このほど、どの魚の血を吸っているのか世界で初めて特定した。英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に論文が掲載された。
人の血を吸うイメージが強い蚊だが、世界には3千種類以上いて、魚やカエル、鳥類の血を吸うものもいる。人の血を吸う蚊は伝染病を媒介するため研究が進んでいるが、人以外の血を吸う蚊については、実態がよく分かっていないのが現状だという。
「蚊を研究してみたい」。数年前、学生から打ち明けられた。卒業後、教壇に立つ学生も多い。「『学生時代は蚊の研究をしていたんだ』と話したら、子どもたちが科学に興味を持つきっかけになるかもしれない」。そんな思いから研究を始めた。
カニアナヤブカは亜熱帯のマングローブ林に住む。昼は穴の中にいて、夜、穴から出て魚の血を吸う。三宅准教授は、2015~17年、学生らと奄美大島や石垣島、西表島などを訪れ、千匹以上採集。腹にたまった魚の血を分析し、血液由来のDNAから15種類の魚を突き止めた。
水槽で飼育したカニアナヤブカでは、自ら陸に上がるトビハゼ類からの吸血が観察されていた。一方、自然の中で捕まえた蚊は、ゴマホタテウミヘビ、ハリガネウミヘビ、ジャノメハゼ、ヤエヤマギンポなどからの吸血が確認され、自ら陸に上がらない魚の血を多く吸っていることが分かった。
これまでの研究で、マングローブ生態系の食物網の一端を明らかにすることができたという。一方で、カニアナヤブカが何を手がかりに血を吸う対象を見つけているのかなど、解明できていないことも多い。
三宅准教授は「沖縄には鳴き声でカエルを見つけて血を吸う蚊がいる。カニアナヤブカも思わぬ方法で魚を探索しているかもしれない。蚊の生態は未解明な部分が多く、これから何が分かるのか楽しみ」と話す。
今回の論文掲載を小学校の教壇に立つ教え子に報告したところ、蚊の話をきっかけに子どもたちが科学に関心を持ってくれたとの報告があった。「子どもたちから蚊が好きな先生だと思われています」。教え子のそんな言葉に苦笑しながら、さらなる研究に意欲をかき立てられているという。(山野拓郎)