参院選の前哨戦となる統一地方選として11道府県の知事選が告示され、「亥年(いどし)選挙」の幕が開いた。野党が統一候補を立てた北海道は、唯一の与野党全面対決に。一方、福井、島根、徳島、福岡の4県では自民党組織が割れる分裂選挙となった。夏の政治決戦を前に、与野党ともに不安材料が浮かび上がっている。
亥年選挙スタート、11知事選告示 北海道は与野党対決
北の大地では前回に続き与野党対決となった。野党5党が推薦する統一候補となったのは、元衆院議員の石川知裕氏(45)だ。
「私は今回、『北海道独立宣言』というキャッチフレーズを掲げた。国に依存せず、自分たちの足でこの大地に立ち、一緒に北海道を元気にしていきたい」
21日の第一声は、昨年9月の北海道胆振(いぶり)東部地震の被災地、厚真町で上げた。
北海道知事選は野党が「安倍政権に対する地方の審判」(共産党の穀田恵二国会対策委員長)の場としており、参院選に向けた野党共闘の試金石となる。だが、この日、応援に立つ野党幹部の姿はなかった。立憲民主党の枝野幸男代表は21日、訪問先の愛知県で「首長選挙は中央が出しゃばりすぎない方が良い」と記者団に説明した。
代わりに、前日から玉城デニー沖縄県知事が応援に入る。石川氏の陣営が意識するのは、政党色を出さず「オール沖縄」で結集して与党系候補を大差で破った昨年9月の沖縄県知事選の再現だ。玉城知事は21日、JR札幌駅前の街頭演説で「南から熱い風を北海道に送る。その風を中央への圧力として届けよう」と支援を呼びかけた。
一方、与党が推薦した前夕張市長の鈴木直道氏(38)も被災地の安平町で第一声を上げた。
「国、北海道、市町村が一体となって、人口減少をはじめとする課題を克服しないといけない」
夕張市が財政破綻(はたん)した当時に総務相だった菅義偉官房長官は法政大学の先輩で、親しい間柄だ。政権中枢とのパイプを念頭に「道外の北海道を愛する皆さんの力を結集する」と強調。自民党の甘利明選挙対策委員長や公明党の斉藤鉄夫幹事長の与党幹部も応援に駆けつけた。
ただ、野党が共闘して与党と全面対決の構図をつくることができたのは、北海道だけだ。
大分県知事選で5選をめざす現職の広瀬勝貞氏(76)には与党のほか、立憲や国民民主、社民各党の支持団体の連合大分も支援に回る。共産新顔の山下魁氏(42)との事実上の一騎打ちになった。
共産を除く野党が候補擁立を見送った背景には、前回の苦い記憶がある。立憲や国民の源流となる民主党は対立候補を支援したが、連合大分は割れ、広瀬氏に大敗。2週間後の大分市長選では、非自民系が40年間守っていた市長の座を自民系に明け渡した。
参院選大分選挙区(改選数1)では野党統一候補と自民現職がぶつかる見通し。連合大分とも関係が深い広瀬氏と戦えば再びしこりを残すことは確実で、相乗りはそれを避ける戦略だった。野党国会議員の一人は「統一地方選と参院選の両面作戦は取れない。与野党対決の参院選に注力するのは当然だ」と語った。
「麻生さんから『2人目立てる』と…」
福岡では、自民党の足もとが揺らいでいる。
自民党が推薦した新顔、武内和久氏(47)が福岡市で開いた出陣式では、「必勝」のはちまきを巻いた麻生太郎副総理が「6年前、安倍晋三が復活したとき『当選するわけがない』と言われ、結果は1番。極めて厳しい状況だが、十分に時間はある」と叫んだ。
安倍首相が返り咲いた2012年秋の自民党総裁選の例を挙げたのは、強い危機感の現れだ。自らが動いて推薦を取り付けながら、地元の自民国会議員が分裂する苦しい状況がある。
3選をめざす現職の小川洋氏(69)が主要3市で行った演説では、県内選出の自民衆院議員6人がマイクを握った。二階俊博幹事長が率いる二階派の武田良太氏は、麻生氏を念頭に「政治家の感情に振り回されるような選挙は言語道断」と言い放った。
内閣広報官だった小川氏は8年前、麻生氏の後押しを受けて初当選したが、16年の衆院福岡6区補選での対応をめぐり関係が悪化。麻生氏の意向も踏まえ、県連が武内氏を擁立した。
だが、こうした経緯への反発もあって小選挙区選出の衆院議員11人のうち6人が小川氏の支援に回った。党県連は党本部に「厳正な対処」を求める要請文を送ったが、造反組からは「選挙後に県連会長を代えて体質改善をしないといけない」と県連執行部の刷新を訴える声も上がる。
根深い対立は、参院選に影響を及ぼしかねない。
福岡選挙区(改選数3)で改選を迎える自民現職の松山政司氏は武内氏の出陣式に出席したが、マイクを握らなかった。周囲には「麻生さんから『福岡選挙区で2人目を立てる』と言われている」と漏らしているという。
共産党の小池晃書記局長は推薦した篠田清氏(70)の応援演説でこう皮肉った。「しょせん自民党AチームとBチームの争いだ」
分裂は「保守王国」の島根でも44年ぶりに起きた。
新顔の丸山達也氏(49)を推す自民県議は、陣営の第一声で「国会議員のためではない、県民のための県政をつくる戦いに挑んでいる」と主張。一方、地元の国会議員やベテラン県議らが支援する党推薦の新顔、大庭誠司氏(59)の陣営では、青木一彦参院議員が「オール自民党で支える」と訴えた。
参院選の鳥取・島根選挙区は、全体の勝敗のカギを握る改選数1の1人区の一つ。鳥取が地盤の現職議員が立つ予定だが、島根県連幹部は「それどころじゃない」と漏らす。自民は同選挙区を、安泰とはいえない「警戒区」に位置づけるなか、分裂の余波が国政選挙に与える混乱は避けられそうにない。
福井も5選をめざす現職の西川一誠氏(74)と、自民推薦を得た新顔の杉本達治氏(56)で割れた。県連内の混乱は、自民の県議会会派の分裂にまで発展。昨年末に25人のうち、西川氏支持の15人が離脱した。
21日、西川氏陣営の出陣式に姿をみせた自民県議は5人。その一人は言う。「以前のように結束することは難しい。(参院選で)100%の力は出せない」