新潟の日本酒と言えば「淡麗辛口」。ところが、最近は甘みや酸味を強調した「甘口」をつくる酒蔵がじわじわと増えている。背景やねらいを探った。
「やばい! めっちゃおいしい」
9、10の両日、新潟市で開かれた日本酒の試飲イベント「にいがた酒の陣」。ほろ酔いの来場者でごった返す会場で、ひときわ若い人たちが集まるブースがあった。市島酒造(新発田市)が今月発売した「かれん 甘口純米」だ。
真っ赤なラベルにはワイングラスを手に持った小粋な猫、その上に白抜きで「女子限定」と大きく書かれている。外観は日本酒と言うよりも果物のリキュールのようだ。
おちょこに注ぐとリンゴのような香りが漂い、口に運ぶとスッキリした甘みと酸味が広がる。新潟市南区の会社員、長沢果南さん(24)は「もっと辛口かと思ったけど、すごく飲みやすい。日本酒が苦手な友達にも勧められる」と満足そうに購入していた。
「もちろん、男性の方にも楽しんで頂けます」と、昨年就任した同社の大和竜一社長(54)。若者も多く訪れる酒の陣で、リキュールやワインを強く意識し、旗艦ブランドの「王紋」より目立つように展示した。酵母を工夫し、フルーティーな香りの元となるリンゴ酸やクエン酸を引き出した。「新潟の酒はうまいが、まず手にとってもらわないと伝わらない」
他のブースでも旗艦ブランドとは別に、可愛らしいラベルやカラフルな瓶の「甘口」の酒を売る酒蔵が目立った。「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」の白瀧酒造(湯沢町)は、独自に開発したキウイの皮から採れる酵母を使った季節限定の日本酒を展示。日本酒度はマイナス70度の「極甘口」だ。担当者は「主力ブランドは辛口が売りだが、季節限定ものは若い世代に向けた商品展開をしていく」と話した。
出荷量 20年で半減
県酒造組合によると、2018年の県産日本酒の出荷量は3万9735キロリットル(前年比6・8%減)で、ピークの1996年から半減。平成以降では初めて4万キロリットルを割り込んだ。こうした中、若者や女性にも受け入れてもらおうと、甘みや酸味を前面に出した日本酒を開発する酒造会社が増えている。
県内ほぼすべての酒蔵の酒がそろい、有料で試飲もできる「ぽんしゅ館新潟駅店」(新潟市中央区)でも、可愛らしいラベルをあしらった「甘口」の日本酒を目立つ場所に並べている。能田拓也館長(43)は「3年ほど前から、飲みやすくフルーティーなお酒をつくる酒蔵が増えてきた」。売り上げの2割前後を占め、「年配の人は新潟らしい辛口の酒を選ぶ一方で、特に若い観光客への受けがいい」という。
ワイン酵母でつくった純米吟醸酒を展開する「越後鶴亀」(新潟市西蒲区)の松島智洋執行役員(43)は、日本酒離れの一因に食生活の変化も挙げる。雑味を極力取り除いた「淡麗辛口」は和食の繊細な味を引き立てるが、「肉の脂や乳製品の濃厚な味は、淡麗辛口の酒では洗い流せない」。飲食店向けの専用ワイングラスもつくり、洋食へのシフトも意識する。「居酒屋のメニューも多様になった。消費者に合わせた酒造りを提案しないと生き残れない」
■辛口一筋 こだ…