「車いすの物理学者」として知られる英国のスティーブン・ホーキング博士が昨年3月に76歳で亡くなって1年がたった。博士が生前に書き残し、欧米でベストセラーになった遺作の邦訳版「ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう」(青木薫訳、NHK出版)の出版に合わせて来日した次男ティモシー・ホーキング氏(39)に父との思い出などを聞いた。
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――博士の新著が話題だそうです。
父は晩年、よく聞かれる質問について自分の考えをまとめたいと思っていました。残念ながら完成を見ることはなかったが、父の遺志に基づいて出版にこぎ着けることができました。私は科学者ではないが、父の情熱や懸念がスナップ写真のように1冊に盛り込まれています。
――特に印象に残った点は?
何と言ってもブラックホールについてです。革新的な業績を残した父の情熱が込められています。難しいと思うかもしれないが、かなりわかりやすく書かれています。もしブラックホールに落ちたらどうなるか。好奇心をかき立てる内容です。
もう一つは、父が警鐘を鳴らしてきた人工知能(AI)の台頭についてです。無秩序に開発することの怖さ、きちんとコントロール下におくことの大切さを説いています。AIは使い方によっては利益につながる。道具としてうまく使ってほしいと父は願っていました。
――家庭ではどんな父親でしたか?
父と息子という関係では、世間一般と同じようなものだったと思います。2人で自動車レースを見たり、チェスとかボードゲームをやったり。ただ、父に勝つのは容易ではありませんでした。一度勝ったことがあるけれど、その時はちょっとインチキをしました。
――意思疎通に不自由はありませんでしたか?
物心ついた時に父は声を失って…