第91回選抜高校野球大会に「21世紀枠」で初出場する熊本西。選手の意気込みも、支える人たちの期待も高まっている。
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熊本西は県立校で、部員全員が地元中学の軟式野球部出身。夏の大会では2年連続で1回戦負けを喫し、現役部員たちは悔しさを味わってきた。新チームは霜上幸太郎主将(2年)を中心に「心に弱さがあった」と野球への取り組みを見つめ直した。昨秋の県大会では打線の奮起で準優勝。初出場の九州大会では県大会を制した佐賀学園を破りベスト8に進出し、1985年夏以来の甲子園出場をつかんだ。
チームは横手文彦監督の「社会人としてのレギュラーを目指す」指導方針の下、自主的な部活運営にも取り組んできた。天気予報を確認し練習内容を提案する「天気掌握班」や防球ネットなどの安全確認と補修を担う「ネット管理班」など全部員が役割を担う。
校外でも、オフシーズンの週末を中心に近隣の神社や道路沿いでゴミ拾いを続けてきた。伊藤惇太郎選手(2年)は「小さなゴミまで拾うには広い視野と集中力が必要。野球でもカバープレーができているかどうかなどによく気がつくようになった」と語る。地域の人や子どもたちからも頑張ってと声をかけられるといい、「まわりからの応援を力にして甲子園を戦いたい」と話す。
横手監督は「力でいえば出場32校中32番目でも、一人ひとりの弱さをみんなでカバーできるチーム」と評する。霜上主将は「公立校の星となれるよう、精いっぱいプレーしたい」と意気込み、前回の甲子園出場時の成績を上回る2勝を目標に挙げた。(清水優志)
「元気もらえる」「感動届けて」チームバス運転手ら
野球部員が練習するグラウンドに隣接する校舎に今月初旬の休日、高校野球の応援で使われる定番曲『アフリカンシンフォニー』のメロディーが響いていた。音楽部の現役部員に交じって演奏していたのは卒業生たち。選抜大会の応援に向けて「現役部員だけでは足りない」と、卒業生たちが応援することになった。
熊本市西区の専門学校生竹内まりあさん(22)は久しぶりに演奏するトロンボーンを手に練習に余念が無かった。現役時代は野球部が勝ち上がれず、応援曲の演奏も初めて。曲目リストを片手に「なかなか立てる舞台ではないので、年代を超えて楽しんで応援したい」と笑顔を見せた。
野球部のバス運転手を務める畑野明秀さん(59)も開幕を心待ちにする。今月9日も同校のグラウンドで練習試合を見守っていた。「このチームは空気が良いんですよ。ベンチの部員もみんな同じ方を向いているでしょ」と、選手に優しい視線を送る。
畑野さんは、九州各地などへの遠征で選手らを送った際も、休憩もせずにベンチ裏で試合を見届ける。「常に一生懸命なこの子たちを見ていると元気がもらえる」。試合後には冗談を言って部員を和ませ、バスへの荷物の積み方が悪ければ、選手に「歩いて帰れ」と遠慮無くズバズバと注意する。そんな姿を見て、恋愛相談や人生相談をする部員もいるという。
バスの運転手として長年多くの野球部を見てきた畑野さんは「荷物の整頓や攻守交代の早さ、失敗しても諦めずに練習する姿。技術は分からないが、このチームの良さが野球につながっている」と話す。1月に選抜出場の知らせを聞いた時は「一足早い還暦祝いだ」と、いつもの発泡酒ではなくビールを開けた。夫婦でうれし涙を流したという。
選抜大会でも熊本からバスを運び、宿泊先から練習場や甲子園に送迎をする予定だ。「乗り慣れたバスでリラックスして、西高らしい簡単に諦めない試合をしてほしい」とほほえんだ。
熊本西が春夏を通じて甲子園に初出場した1985年に監督だった元田保さん(80)も「もう一度甲子園出場を見られて『冥土の土産』だ」と喜ぶ。当時のチームも今年と同様、主力選手は地元中学の軟式野球部出身だった。熊本大会前には注目されるチームではなかったが、全員野球で県大会を制し、甲子園でも1勝を挙げた。「『21世紀枠』で選ばれたというのは先輩たちが積み上げてきた野球が評価されたのだからより価値がある。全力プレーを見せて感動を届けて欲しい」(清水優志)