旧優生保護法の下で強制的な不妊手術を受けた被害者に対する最大限の対応――。10日の衆院厚生労働委員会で与野党議員はこう強調し、救済法案への理解を求めた。だが、当事者が「被害回復の第一歩」として求める違憲性を認める言葉はなく、各地で続く国家賠償請求訴訟を意識した慎重な発言に終始した。
強制不妊、救済法案が月内成立へ 被害者側は納得せず
厚労委で冨岡勉委員長は、救済法案の趣旨を「このような事態を二度と繰り返すことのないよう努力を尽くす決意を新たにし、本法律を規定する」と説明。法案を委員長提案の形で衆院に提出することが全会一致で決まると、委員から拍手が起きた。
与野党の合意に基づき委員長が提案する法案については質疑をしないのが慣例だが、今回は問題の重大性から質疑が行われた。
主に質問に立ったのは、約1年にわたり法案検討に携わった与党ワーキングチーム(WT)と超党派議員連盟(議連)のメンバー。
WT座長の田村憲久・元厚労相(自民)は、議員立法の旧優生保護法が全会一致で成立したことに触れ、「今の人権意識からすると許されないような内容。立法府の一員として深くおわびを申し上げる」と述べた。だが、旧優生保護法の違憲性や救済策を講じなかった国の責任には踏み込まなかった。
救済法案については「対象を幅広くしていることが大きなポイント」と強調した。さらに、被害者の高齢化に言及し、「平成のうちに成立することを心からお願いする」と述べた。
公明党の桝屋敬悟氏も、おわびのあいまいさや一時金の額などへの批判を念頭に「被害弁護団から歓迎されない法案だと承知しているが、与野党議員がこの問題に真摯(しんし)に向き合い、現時点で取り得る方策を取りまとめた」と理解を求めた。
「今でも『不妊手術は当時は合法だった』という立場に立つのか」。共産党の高橋千鶴子氏が問いただす場面もあったが、根本匠厚労相は「国賠訴訟が係争中で、政府の見解を申し上げるのは差し控えたい」と繰り返した。その後も、厚労省の担当局長は違憲性に関する質問をかわした。
救済法案を検討してきた与野党議員は「国会の意思を明確に示すため」として、救済法案の審議と同時に衆参両院で決議を行うことを検討していた。だが、「国会決議をしても、救済法案の域から踏み込むことはできない。それだとまた批判される」との慎重論が広がった。WTメンバーは「訴訟に配慮した法案前文のおわびはガラス細工」と対応できる範囲には限界があると指摘した。
決議の文言調整が進まないまま、統一地方選に突入。「法律の成立を優先する」として、参院本会議での法案採決以降に先送りする流れが固まった。
10日の委員会終了後に記者会見した被害弁護団は、違憲性を認めた上での謝罪や1人あたり3千万円以上の慰謝料を求めた訴訟を継続する方針を表明した。議連からは「ここまで対決姿勢でくるなら、国会決議も(5月28日の)仙台地裁判決を見てから考えればいい」との声が漏れる。(西村圭史、山本恭介)
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