シンギュラリティーにっぽん
血圧や運動量といった情報をリアルタイムに集めて人工知能(AI)が解析、治療に役立てる。そんな新しい医療をめざす実験が進行中だ。社会保障のしくみを変える可能性もある。(編集委員・浜田陽太郎)
1千万人に1千万通りの治療を
東京都内のIT企業でシステム開発を担う森田孝之さん(40)は1年ほど前から、スマートフォン上の七福神と「対話」するのが日課だ。「たくさん歩いておる。とてもうれしいぞ」。恵比寿様はこんなふうに褒めてくれる。
3年ほど前に突然、体調が悪化した。大量の汗をかく。集中力を失い、仕事のミスが続く。病院を受診すると糖尿病と診断され、検査などのため数週間、入院することになった。
働き始めたころ、世はITバブルに沸いていた。「月300時間労働というのは普通だった。400時間を超えた月もありました」。森田さんは振り返る。「仕事場に何日も泊まり込み、椅子を並べて寝る。食生活なんてメチャクチャ」で、数年後には病気で休職に追い込まれた。今回、糖尿病になった原因は不明だが、「たまっていたものが出た」気がする。
森田さんは今、ウェアラブル端末を常に携帯し、歩数など活動量を記録。体組成計などで毎日測る体重や血圧といったデータや、食事内容の情報もスマホに集約し、病院につながるコンピューターに送っている。
森田さんが参加するのは、政府が資金を出し、国立国際医療研究センターが主導する大規模な臨床研究だ。1千人を超える糖尿病患者が1年かそれ以上にわたりデータを送り続ける。3年にわたる研究で学術的に質の高いデータを積み上げ、2022年に糖尿病の標準的な治療法として位置づけることをめざす。
ウェアラブル端末を治療に活用する実験自体は世界でも珍しくないが、対象が数十人程度、期間も数カ月と短いものが多かった。
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ウェアラブル端末は「飽きられやすい」という欠点があり「半年で半分が使用をやめるのが相場」と、研究代表を務める同センターの植木浩二郎医師はいう。そこでスマホのアプリを工夫。歩数は恵比寿様、体重は布袋尊など項目ごとに「担当」の七福神が登場し、患者を日々励ましたり、アドバイスしたりしてくれる。
集めた情報は主治医が見る。月…