2020年東京五輪・パラリンピックや大会後を見すえて、解決したい課題や取り組みたい活動を、企業トップらに聞きます。初回は、東京商工会議所会頭の三村明夫さんです。
聞きたい 2020へ
前回の東京五輪があった1964年、入社2年目に結婚しました。通勤で乗った当時の国鉄中央線から、首都高速道路がみるみるうちにできるのを目の当たりにし、新幹線で妻と新婚旅行に行った思い出があります。
東京オリンピック2020
そのころ鉄の需要予測を控えめにみて上司に持っていったら「モータリゼーションはもっとすごい勢いでいくぞ」と怒られてね。若い国で、何もかも想像を超える勢いで伸びていました。貧しかったけど給料は毎年上がり、将来に希望を持っていました。その象徴が五輪でした。
先進国の仲間入りが目標になりました。訪日外国人に恥ずかしい対応があってはいけないと、当時の東京商工会議所は商業マナーを向上させて、親切に対応しようと取り組みました。
いまは物質的な豊かさこそありますが、人口は減り、高齢者の割合は30%近くになっています。国民は将来に不安があり、潜在成長率も年1%程度です。
2020年は、将来の希望を生み出す転機ととらえればいいのではないでしょうか。例えば訪日外国人客を年4千万人に増やす目標があります。人口減少が進めば、それを補うために交流人口を増やさなければならない。五輪を機に訪日リピーターを増やす取り組みが必要です。
潜在成長率を上げて将来の安心を得るためにも、人手不足を解消しなければなりません。すでにインフラ補修や農作業にドローンが使われ、自動運転も20年大会までに成果をあげようとしています。技術があるだけでは意味がなく、できるだけ早い社会実装が必要だと思います。
人手不足の解消は生やさしいことではありません。あらゆる対策を打たないといけませんが、究極的には生産性の向上です。企業数の99・7%を占める中小企業の問題は、ITを十分に活用できていないことです。IT投資が高すぎるといった誤解も中小経営者にはあります。
賃金を上げなければ労働者は他社にいきますが、生産性が上がらないまま賃金を上げれば経営は持ちません。生き延びるのが厳しい状況ですが、20年が生産性を上げる発火点になるかもしれないと思っています。
20年に向けて心のバリアフリーも狙っています。前回大会のようなマナーの心配はしていませんが、スムーズな交流は大事です。困っている外国人や障がい者がいたら「何かできることはありますか」と一声かける。日本人は一歩が踏み出せませんが、前に出る勇気が必要です。
言葉は通じないけど道案内してくれてうれしかった、という話も聞きます。人と接して心が温まった記憶は、食べ物や景色よりその国のいい印象につながります。大会期間中の交通緩和・輸送の円滑化や大会を契機とした働き方改革など重要な課題はありますが、そういったことにも力を入れていくつもりです。(聞き手=末崎毅)
みむら・あきお 東京大卒。1963年富士製鉄(現・日本製鉄)に入り、2003年に新日本製鉄(同)社長。その後の会長時代には住友金属工業との合併を主導した。13年11月、東京商工会議所と日本商工会議所の会頭に就任。今年2月、3期目も続投することを表明し、20年東京五輪・パラリンピックに会頭として臨むことが決まった。