短歌未経験の高校生が授業で初めて詠んだ作品が、全国コンクール「~家族を歌う~河野裕子短歌賞」で最優秀賞に輝いた。4月末、鳥取市の県立鳥取東高校を訪ね、話を聴いた。
同校では昨年、現代文の課題で1年の生徒約80人が短歌を作った。担当教諭で歌人でもある荻原伸さん(48)の指導で、全員が同賞などに応募したところ、中学・高校生による「青春の歌」部門(応募1万3256件)で現在2年の石名萌(いしな・もえ)さん(16)が最高の河野裕子賞に輝いた。
「干からびたカエルをよけてすすみゆくばいばい、わたしは夏をのりきる」
石名さんが短歌に詠んだのは、自転車で登校中に見た道端で死んだカエルだ。カエルを気の毒に思いつつ、どうすることもできず通り過ぎてしまう。夏の情景を題材にしようと考えていたとき、この出来事を思い出したという。「生き物が干からびた夏の情景と、自転車で走る疾走感を込めた」
これまで短歌を作ったことはなかった。だが、文章を書くことは好きで、日記をつけたり、日常でふと感じたことをメモしたりしてきた。後でメモを読み返すと、今と過去とでものの感じ方が違い、おもしろかった。「違う人に会ったみたい」。これまで自分の引き出しにためてきた言葉が今回の受賞につながった。
石名さんの歌は表現豊かですぐに情景が思い浮かぶ、と荻原さんも評価する。「短歌や文学は、立ち止まって既存の世の中を考えてみること。生徒と短歌の距離がさらに縮まれば」と指導してきた。今年2月には若山牧水青春短歌大賞でも別の生徒2人が入選した。
短歌との出会いを機に、創作意欲を高める石名さん。「十代だから書けることを、いま書きたい」と、笑った。(鈴木峻)