鉄道模型好きの少年が、半世紀抱き続けた夢を実現した鉄道模型店は、5年で幕を閉じた。店の看板で、鉄道模型人生の集大成ともいえるジオラマが岐阜のローカル線の小さな駅で、子どもたちの歓声とともに第二の人生を歩み始めた。
【鉄道特集】テツの広場
名古屋市北区で鉄道模型店を営んでいた宮崎博さん(69)は、小学4年生の時、鉄道模型と出会った。
「軌間(線路幅)が32ミリのOゲージを父親に買ってもらい、はまった」
興味の対象は中学3年で軌間16・5ミリのHOゲージに移り、さらに軌間9ミリのNゲージへと変わった。その熱は、電機メーカーに就職後も、決して冷めることはなかった。
62歳まで一生懸命働き、退職後、念願だった鉄道模型店を開いた。店には、定年前からコツコツと作り続けた縦2メートル、横5・4メートルの巨大ジオラマを置いた。Nゲージ車両を6編成同時に走らせることができる大作目当てに何人も常連さんができた。
鉄道好きが集う自慢の店だったが、経営は厳しく、赤字が続いた。「5年続いたし、そろそろ潮時かな」。昨年12月、店を閉めた。通信販売で営業は続けることにしたが、気がかりは、心血を注いだジオラマだった。
線路の配置や駅などの鉄道施設制作に力を注ぐジオラマが多い中、あえて周囲の風景制作にこだわった。会社員時代、営業で何度も訪れた岐阜には特に愛着があり、金華山や岐阜城、ロープウェイなどを作り込んだ。
「作るのに2、300万円くらいかかったが、人様に売るようなものでもない。でも、ジオラマは自分の分身」。思い悩んだ末、お気に入りで、何度も乗った長良川鉄道に寄贈することを打診した。
長良川鉄道は沿線人口の減少や高齢化で厳しい経営が続く。申し出に「ジオラマが駅のにぎわいを取り戻す一助になれば」と受け入れることにした。
関駅の待合室にジオラマを置き、土日祝日に鉄道模型の愛好者に1コース1時間500円で貸す。鉄道模型好きのボランティアが駅に詰め、遊び方を教えてくれる。日置敏明社長は「宮崎さんには設置も手弁当でやってもらい、本当にありがたい。鉄道ファンが集う駅になってくれたら」と話す。
本物の列車が発着し、警笛や踏切の音が響く中で模型を楽しめる。「こんな特等席に置いてもらえてうれしい。子どもたちにも鉄道模型の楽しさを知ってもらえたら」。手塩にかけたジオラマの幸せな再出発を、宮崎さんは、もう少し見守るつもりだ。(山野拓郎)