女性洋画家として初の文化功労者になった三岸節子(1905~99)が、ふるさとの近くを描いた油絵が北海道室蘭市で見つかった。愛知県一宮市出身の節子は、画家になるために親の反対を押し切って上京するなど実家と確執があり、故郷をテーマにした作品はほとんどないという。
所在が確認されたのは「長良川」と題した作品。「週刊朝日」54年2月28日号の表紙の原画で、山と、ふもとを流れる清流をあっさりしたタッチで描写している。一宮市三岸節子記念美術館の長岡昌夫さんによると、節子は27年の夏を夫で画家の好太郎や娘とともに岐阜で過ごし、金華山や長良川を毎日のように眺めていたという。実家から車で30分ほどの距離だ。節子が週刊朝日に寄せたコメントから、このときの記憶を元に制作されたと思われる。
当時、週刊朝日では表紙の人気投票があり、投票した読者に抽選で原画が贈呈された。長岡さんは当時の記事から「長良川」が室蘭市の女性に贈呈されたことを知り、北海道立三岸好太郎美術館などの協力を得て持ち主の黒田美智子さん(93)を捜し出した。
黒田さんは「作品の話を聞かれるのは、当時の週刊朝日のインタビュー以来です」と、驚きながらも喜んでいたという。
長岡さんは「『長良川』は節子が渡仏前に描いた貴重な風景画。油彩ながら水墨画のようにさらさらと描いている」とみる。公開は未定だが「ぜひ故郷の一宮の美術館でみなさんに見ていただきたい」と話している。(千葉恵理子)