◇反戦映画作らねばならない
「クルド人の状況を世界に知ってほしい」。イラン出身のクルド人映画監督バフマン・ゴバディはそう言い続ける。長編デビュー作の「酔っぱらった馬の時間」、続く「わが故郷の歌」とも同胞を描き、高い評価を受けてきた。公開中の新作「亀も空を飛ぶ」は、米軍のイラク侵攻直前、翻弄(ほんろう)される子供たちが主人公だ。
イラク戦争終結後に訪れたバグダッドの惨状に衝撃を受けた。「反戦の映画を作らなければならない。最も悲惨な目にあっているのが子供たちだ」
舞台は国境近くのクルド集落。手や足を奪われたり、目が見えない子らが、危険な地雷撤去を行い、戦争に備えて銃を手にする。子供たちはたくましいが、状況は悲惨だ。「子供ばかりでなく、映画にはクルド人の生活をそのまま写した」と話す。
米軍がフセイン政権を倒しても、悲劇は終わらない。「フセイン政権崩壊後、クルドの生活は改善されている。でも、それは米軍のおかげではない。クルド人が抵抗し続けた結果だ。苦労して建てた家に、米軍は塗装をほどこしただけ。悪魔のフセインよりは、米軍という悪者の方がまし、というに過ぎない」
各国の支援が入り、経済的には一息ついた。だが「文化の立て直しは後回し。子供たちにも文化的教育をすべきだ」と熱を込める。気をもむばかりでなくみずから陣頭に立って、映画館を修復し、後に続く人材も育ててきた。「自分の映画を見た若者たちが、心に革命を起こしてくれることがうれしい。それが映画作りの目的だから」。東京・岩波ホールで。【勝田友巳】