スウェーデンの王立科学アカデミーは5日、05年のノーベル化学賞をフランス石油研究所のイブ・ショバン名誉研究部長(74)、米カリフォルニア工科大のロバート・グラッブス教授(63)、米マサチューセッツ工科大(MIT)のリチャード・シュロック教授(60)に授与すると発表した。ショバン氏は有機化合物中の炭素原子に結合する分子を自由に取り換えて新しい物質を合成するメタセシス(位置交換)という化学反応の理論を確立した。グラッブス、シュロック氏は反応を実現する触媒を開発した。
この技術によって、医薬品の開発や、新たなプラスチックの製造が大きく進んだ。
授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれ、賞金の1000万クローナ(約1億5000万円)は3人が等分する。
生物の体や生物が作り出す物質(有機化合物)は炭素が基本的な骨格となる。炭素は他の元素と結合する「手」を4本持っており、結合する元素などを変えられれば必要な有機化合物を自由に作ることができる。
多くの有機化合物では炭素同士が2本の手で固く結びついており、この二重結合を切断するのは難しいとされていた。
ショバン氏は71年、金属化合物を触媒として利用することで二重結合が切れ、結合相手を変えることができることを理論的に示した。シュロック氏は90年にこの反応を効率よく実現する金属触媒を生み出した。グラッブス氏は92年に、幅広く使える触媒を開発した。
新たな触媒の開発で、メタセシス反応は除草剤や多彩なプラスチック製品の製造、エイズやがん、C型肝炎、細菌感染などの治療薬開発に応用されている。反応が効率よく進むため、有害な廃棄物の発生を減らすことができるようになった。
◇森・北大名誉教授ら3人、発表資料で言及
05年のノーベル化学賞に合わせ、ノーベル財団が公表した解説資料に日本人の名前があった。森美和子・北海道大名誉教授(64)=有機合成化学=ら3人で、森さんらの98年の論文が、参考文献の一つに挙げられたのだ。
森さんは1987年、受賞者の一人のグラッブス氏の研究室へ留学した経験があり、今回の受賞対象となった炭素の二重結合を自在に切る化学反応の研究では、国内の第一人者。
森さんは、グラッブス氏が92年に発表した触媒の論文を読んだとき、「だれもが意図的に起こしたいと考えていた夢の反応だった。10年に1度の素晴らしい反応だと思った」という。その後、炭素の三重結合を切る研究に取り組み、グラッブス氏の触媒が三重結合でも有効であることを発見した。
解説資料に引用された論文は、反応がうまく進まない場合にエチレンガスの中ではうまく反応することを証明したもので、当時森さんの研究室の学生だった榊原紀和さん、木下淳さんとともに執筆した。
森さんは「グラッブス先生は以前からノーベル賞を取ってほしいと考えていたので、とてもうれしい」と声を弾ませた。