札幌市東区で5月、内縁の妻の連れ子に度重なる暴行を加えたとして、男(38)が傷害容疑で逮捕された。暴行に気付いた小学校が児童相談所と連携し、札幌東署に通報したのが捜査のきっかけ。専門家は今回のケースのように、地域と関係機関が連携して対処することが重要と指摘する。
「お母さんに会いたい」
昨年12月、男の暴行におびえる小学校3年の男児(8)=当時=が、保護に当たった警察官にはっきりと伝えることのできた唯一の言葉だった。
男の暴行は昨年11月ごろからエスカレートし、拳で何度も殴ったため、男児の顔は内出血で腫れ上がり、全身にはあざができた。保護された時は、折れたろっ骨が肺に突き刺さるけがも負っていた。
札幌東署は児童相談所などからの通報を受け、12月上旬に捜査に着手した。母親は内縁の夫の行動を「しつけ」と主張したが、同署はその範囲を逸脱していると判断した。調べに対し、男は「しつけのつもりだったが、ちょっと度が過ぎたかもしれない」と話しているという。
男児が通っていた小学校では、登校しないとすぐに教師が家庭訪問し、母親から話を聞き児童相談所に連絡した。校長は「保護者に任せるのと、関係機関と連携を取るのと、子供にとってどちらがいいのか、天びんに掛けなければならない場面だった」と悩みながらの判断だったことを打ち明ける。相談所側は「04年の法律改正で、児童虐待の疑いがあれば通報するよう義務づけられた。学校の意向をくみながら対応するので、兆候がある場合は相談してほしい」と話す。現在男児は児童養護施設に保護され、別の小学校に通っている。
05年度に札幌市の児童相談所に寄せられた虐待通報件数は311件。4年前の2.3倍で過去最高となった。近隣・知人からの通報が142件を占め、虐待に対する市民の関心の高まりが背景にあるとみられる。今回のケースについて、札幌学院大の松本伊智朗教授(児童福祉論専攻)は「学校、児童相談所のサポート態勢と警察の介入がセットになったのでうまくいったのだろう。児童虐待は対処が難しく、成功例として小学校や児相などにこの経験が蓄積されていくことが望ましい。今後、連携がさらに重要になる」と話している。【内藤陽】
毎日新聞 2006年6月12日 13時29分