【エルサレム樋口直樹】イスラエル南部で25日朝、パレスチナ武装勢力がイスラエル軍を襲い、双方合わせて5人が死亡した戦闘で、軍当局は同日午後、負傷した兵士1人が拉致されたと発表した。自治政府を率いるイスラム原理主義組織ハマスの軍事部門が襲撃に加わったため、イスラエルは人質の兵士に危害が加えられた場合、自治政府高官も報復の対象になり得ると警告。ハマスとイスラエルの軍事的対立が一気に過熱する恐れが出てきた。
イスラエル軍を襲撃したのはハマスのほか、パレスチナ民衆抵抗委員会と「イスラム軍」を名乗る正体不明の組織。ガザ地区の最南端に掘られた秘密のトンネルを使ってイスラエル領に侵入、対戦車砲などで軍を攻撃した。事件後、イスラエルのオルメルト政権は治安閣議を開き、「全ての責任は自治政府にある」と指弾。「いかなる個人も組織も責任を逃れられない」と言明した。
閣議では「首相と国防相がテロ組織と自治政府の標的に対する作戦行動を決定する」ことが承認されたが、政府は当面、人質の安全を第一に特殊部隊による救出や外交ルートでの解決を図る見通し。当局筋は「2日以内に人質が解放されなければ軍事作戦に移る」とロイター通信に語った。
一方、ハマス政府は自派の軍事部門による襲撃でイスラエル側が「人質が取られた」と主張していることに戸惑いを隠しきれない様子。ハマスはイスラエル軍の襲撃は認めているが、兵士の拉致には触れていない。
ハマスの軍事部門は9日、イスラエル軍の関与が疑われる民間人爆死事件を機に停戦を破棄。今回の事件は、自治政府の穏健派アッバス議長がハマスに対し、イスラエルの承認か住民投票かの二者択一を迫るなかで発生した。穏健路線に反対するハマスの強硬派が、パレスチナ内部の権力闘争に刺激され、本格的な対イスラエル攻撃を再開した可能性がある。
毎日新聞 2006年6月26日 11時17分