「選挙ポスターは選管が張ってくれるものだとばかり思ってました」。選挙中、演説会で笑いながら言った。ゆっくり、とつとつとした語り口に「貧弱やなあ」と感想を漏らす聴衆もいた。政治の素人ばかりで始めた選挙運動は、新幹線新駅建設など大型事業を徹底的に批判する姿勢が、次第に共感を広げていった。
環境社会学の分野の第一人者。水環境と地域社会の関係を調べ、「暮らしの知恵」や「共同体」の精神を大切にしながら環境を考える「生活環境主義」の提唱者としてファンも多い。学生時代から約30年間、琵琶湖周辺の3000自治会の集落を地道に歩いたフィールドワークの成果だ。
研究では住民重視の立場を貫いてきた。集落に入り、土地のお年寄りや子どもに柔らかな口調で的確に問いかける。調査で培われた能力は、選挙戦でも分かりやすい争点設定などに発揮された。
当選後、「大型事業の凍結」を表明。県政運営は波乱含みだが、「県職員として20年働いた。学究というより、私は行政マンなんです」と自信を見せる。
シンクタンク代表の夫との間に息子が2人。孫が3人いる。「子どもの能力を引き出さないのは『もったいない』」と、ここにも持論の「もったいない」精神。水辺と親しんだ昔の暮らしや知恵を伝えてもらおうと、子どもとお年寄りの交流を進める活動にも取り組む。孫のために手打ちうどんを作る楽しみは、しばらくは、お預けか。【服部正法】
【略歴】嘉田由紀子(かだ・ゆきこ)さん 京大大学院修了。京都精華大教授。元滋賀県立琵琶湖博物館研究顧問。「生活世界の環境学--琵琶湖からのメッセージ」など著書多数。56歳。
毎日新聞 2006年7月4日 0時29分