滋賀県知事選は2日投開票され、大型公共事業のストップを訴えた環境社会学者の嘉田由紀子氏が、自民、民主、公明3党相乗りの現職、国松善次氏を破って当選した。
「もったいない」を旗印に嘉田氏は、同県栗東市で今年5月に起工した新幹線新駅「南びわ湖駅」(仮称)の建設凍結を主張。淀川水系のダム建設にも反対してきた。巨額の公費負担が伴うだけに、国松陣営の公約に県民は「ノー」を突きつけた。
嘉田新知事はハコ物作りをやめ、浮いた予算で県財政の赤字削減や子育て支援策の充実を図ることを公約している。新駅予算の執行停止には、県議会などとのあつれきも想定できる。新知事の行政能力が早々に問われる。
「平成の大合併」以来、各地で住民投票が行われるようになった。昨年の「郵政解散」による総選挙では、政権選択よりも郵政民営化の是非が最大の争点だった。国民投票的要素に関心が集まり、小泉純一郎首相が率いる自民党が大勝した。嘉田氏の勝因も、この延長線上にある。
争点の新幹線新駅は、人口急増地帯への企業誘致の切り札と、国松県政では重視されていた。その一方で、建設費約240億円のうち、半分近くを県が、残りを関係自治体が分担することとなっている。だが、「のぞみ」は停車せず、経済効果も疑問視されていた。
毎日新聞が投票当日に行った出口調査では、「新駅は必要ない」が78%に及んでいた。また、「建設費が高すぎる」も80%に達し、その多くは嘉田氏に投票した。
少子高齢社会が進む一方で、国、地方自治体も財政健全化が急務となっている。加えて、滋賀県は京阪神の通勤圏でベッドタウン化が進み、環境問題に関心の高い住民が多い。こうした土地柄だけに、市民運動家や女性、学生らが中心のネットワーク型選挙が大いに威力を発揮した。
半面、「小泉改革」の浸透で、全国的にも既得権益の擁護だけを図る勢力は、確実に後退した。国松陣営の選挙戦術は、旧来の公共事業による地元利益誘導型と県民には映ったようだ。十分な効果が得られなかったのは当たり前だ。
嘉田氏の要請に応じ、支持に回ったのは社民党だけ。国政レベルでは圧倒的な勢力を誇る自民、民主、公明3党は国松氏を推した。政党枠だけの選挙では、無党派層を十分に吸収できないことが、今回も明らかになった。
中でも問題なのは民主党の対応だ。知事選は原則として自民党との相乗りは行わない方針だったはずだ。小沢一郎代表も「党の主張を体現できる候補を出来るだけ立てたい」と語る。当然だ。
来年の参院選で与野党逆転を実現するには、滋賀を含めて全国29の1人区で勝利することだ。滋賀県知事選は格好な先行指標になるはずだった。だとしたら一層、相乗りを拒否する姿勢が求められよう。宿願の2大政党制の実現のためには、自民党とは違う選択肢を提示することが欠かせない。
毎日新聞 2006年7月4日 0時25分