岐阜県中津川市のパチンコ店空き店舗で今年4月、同市立第二中2年の清水直さん(当時13歳)が殺害された事件で、直さんの母恵子さんが報道各社の取材要請に応じて26日、近く岐阜家裁で開かれる同市内の少年(15)=殺人の非行事実で家裁送致=の第1回審判を前に心境を語るコメントを寄せた。
コメントはA4判の紙1枚。少年を検察官送致(逆送)して大人と同じ刑事裁判で事件の真実を明らかにしてほしいと訴えている。全文(原文のまま)は次の通り。
「審判を前に」
少年は、13歳という娘の命を身勝手な理由で残酷な形で奪いました。
そして、私たち家族の人生や将来、生きる気力をも奪ったのです。あの日から私たち家族の時間は止まったままです。真っ暗闇です。
娘も暗闇の中にいると思います。ひとりぼっちで苦しんだまま去ってしまったのです。無念だったと思います。
これ以上の悲しみはありませんし、辛いこと、苦しいこともありません。そして、これ以上の憎しみも恨みもありません。
でも、審判の日だけが刻々と迫っています。
これまでの少年の態度や対応等からして、少年が本当に反省しているとは、思えません。それに、犯行態様や犯行後の行動など知れば知るほど、益々許せない気持ちで一杯です。
少年には刑事裁判への逆送を強く望みます。
検察官の立会もなく、密室で被害者不在の審判で、大切な娘の命を奪ったことの罪の重さを決めてほしくありません。
殺した側の少年に人生をやり直す機会が与えられ、娘はもう人生を送ることができない、このことがどうしても理解できないでいます。娘が一人殺されても犯人が死刑とならないことは悔しいですがわかっています。しかし、被害者遺族からすれば、尊い娘の命一つで十分あまります。娘が殺されたという事実を受け入れることができないまま、犯人の罰を受け入れることはできません。犯人の少年を更生させるために娘は生まれてきたのではありません。たとえ15歳の少年でも、厳しく刑事罰に処されることを望んでいます。
少年の誠意ある対応や反省のない状況では、私達遺族は、いつまで経っても娘の命が奪われた絶望や悲しみ怒りから立ち直ることができません。せめて、事件の真相を知りたいと思いましたが、裁判所には記録の大部分を見せてはいただけませんでした。
たった13年間しか生きられなかった娘の無念と私達家族の悲しみを、もう誰も味わうことのないよう願う気持ちでいっぱいです。
報道機関の方にお願いします。
少年は、氏名も顔写真も伏せられ、すべて守られましたが、娘は実名のうえ、いくつもの写真や自宅の映像まで全てが報道され、世間の目にさらされました。
また、報道されたことの中には、娘や私達家族を傷つけるものもありました。この世にいない娘は、事実と違うことを報道されても、もう否定もできず反論もできず涙を流すこともできません。残された私達家族もこれから生きていかなければなりません。小さな町で起きたことが大きく報道され、住み慣れたこの中津川で暮らしていくことをとても不安に思っています。
私達家族は、娘を失ったときから時が止まっています。まだ現実を受け入れられない状況にあります。逆送になった結果、真実が明らかとなり、娘の名誉がさらに傷つけられるのではないか、残された家族がさらに傷つくことになるのではないかと、報道の与える影響力を恐れ、逆送を迷う気持ちもあります。しかし、娘の名誉を回復するために、戦おうと思っています。どうか私達家族の気持ちにそった報道をお願いします。
平成18年7月26日
清水恵子
毎日新聞 2006年7月27日