富山県射水市の射水市民病院(麻野井英次院長)で末期患者7人の人工呼吸器が外された問題で、関与を認めている伊藤雅之・前外科部長(50)=現・射水市福祉保健部参事=が3日、毎日新聞の取材に応じた。主治医として関与した患者は6人で、うち1人は生前に直接本人から延命治療を望まない意思を確認し、2人については本人の意思が推定できたことを明らかにした。富山県警の事情聴取については、「患者はみな回復不能の脳死状態だった。家族の同意はカルテにも記録されており、犯罪ではない」との認識を示した。
本人が延命治療を望まない意向を直接伝えていたのは、50代の女性がん患者。胃がん手術後に背骨に転移。抗がん剤治療の過程で女性は「最後は楽に逝きたい」と延命治療を望まない意思を伝えたという。女性は夫にも「チューブにつながれてまで生きたくない」などと話していたといい、最終的には「つらい選択だけど本人のためには一番いいんだ」という夫の求めに応じ、呼吸器を外したという。
本人の意思が推定できた患者の1人は、膵臓(すいぞう)がんの70代の男性。手術後のやりとりで「痛みだけとってもらえれば、他の治療はしてほしくない」と話したという。
また、肺炎だった90代男性は、家族の話やカルテや看護記録にある本人の発言から、延命治療を望んでいなかったことが分かったという。
6人については、家族の希望で呼吸器を外した趣旨の記載がカルテにあるが、同意書はない。この点について「患者さんとの付き合いも長く、信頼関係は紙ぺらではない。『患者のために何をしてあげられるか』から医療が始まる。最大限、家族の意思に沿うよう心がけた」と話した。
今回、実名を出しての取材に初めて応じた理由については「一部の病院で拙速なマニュアル作成へと短絡する傾向が見られる。『人工呼吸器外し』の患者さんの情報を現時点で可能な限り公表し、深い論議と考察をしていただく機会になればと考えた」と語った。【富山呼吸器外し取材班】
毎日新聞 2006年8月4日