東京消防庁の救急隊員の女がインターネットの「闇サイト」を通じて不倫相手の妻の殺害を依頼した事件で、依頼を実行するつもりがないのに女から現金をだまし取ったとして、警視庁捜査1課は3日、サイトを管理していた東京都杉並区高円寺北3、探偵業、奥平明男容疑者(48)を詐欺容疑で逮捕した。奥平容疑者は「駆込寺総合調査事務所」と題するサイトを開設し、「殺人」「復讐(ふくしゅう)」などの項目を並べて依頼者を募集していた。闇サイトの関係する事件が増えているが、管理者が逮捕されるのは異例だ。
調べでは、奥平容疑者は昨年12月、サイトを通じて不倫相手の妻の殺害を依頼してきた渋谷消防署救急隊員、河口絵里子容疑者(32)=暴力行為法違反容疑で逮捕=に対し、実際は殺害するつもりがないのに「調査費」などを要求、現金165万円をだまし取った疑い。依頼対象の女性の写真を撮影し、メールで河口容疑者に送信するなどしていたが、殺害は図らなかった。
奥平容疑者は友人に「(河口容疑者は)公務員だから金払いがいい」などと漏らしていたという。逮捕前の事情聴取では殺害依頼であることを理解したうえで現金を受け取ったことを認めていたが、逮捕後は「殺害依頼を受けた覚えはない」と容疑を否認している。
奥平容疑者は河口容疑者に「実行部隊に(依頼を)引き継ぐので詳細を打ち合わせてほしい」と言って、自称探偵業、田部孝治容疑者(40)=同=を紹介していた。田部容疑者も河口容疑者から依頼金約1400万円を受け取ったが、殺害が実行されないことを不審に思った河口容疑者が7月に「だまされているのではないか」と警視庁に相談したことから事件が発覚した。【宮川裕章】
◇プロバイダーが努力を
犯罪を助長する内容の「闇サイト」は、実際に法律違反をしない限りサイト管理者が取り締まられることはなく、プロバイダーの自主規制に任されてきた。しかし有害サイトの規制を求める声も強く、総務省は8月、犯罪を誘発する可能性があるサイト対策に向け、研究会を発足させている。
きっかけは今年6月、山口県立光高校で男子生徒が教室に爆発物を投げ込んだ事件。生徒がインターネットのサイトを参考に爆発物を作ったとされたことを重視し、プロバイダー関係者らも参加して対策を探っている。「表現の自由」との両立が重要なテーマで、同省電気通信事業部消費者行政課は「各サイトについて、公序良俗に反するかどうかの線引きが難しい」と話している。
今回の事件は、サイト管理者自身が詐欺という犯罪行為にかかわったとして異例の逮捕となった。しかし、警察がすべてのサイトを監視することも難しく、取り締まる側に「特効薬はない」(警察庁幹部)のが現状だ。
インターネット事情に詳しい森井昌克・神戸大教授(情報理論専攻)は「サイト管理者の取り締まりには、やはり表現の自由の問題がある。『いいサイト』と『悪いサイト』の判断を行政に委ねるのでなく、プロバイダーが有害サイトをはんらんさせない努力をすべきだ」と話している。【鈴木泰広、川上晃弘】