日本経団連の会長・副会長会議は、来年5月に退任する奥田碩会長の後任に御手洗冨士夫キヤノン社長を起用することを了承した。経団連と日経連が統合して発足した日本経団連は、2人目の会長を迎えることになる。
トヨタ自動車の圧倒的な企業業績を背景に、奥田会長はさまざまな場面で存在感を示した。だが、いくつか論議を呼んだ決定や行動もあった。例えば、従来とは違う形式とはいえ、政治献金を復活させた。政治に対する日本経団連の影響力強化が目的とされた。
小泉純一郎首相が進める改革の主題は「官から民へ」である。奥田会長も、経済財政諮問会議の民間メンバーとして小泉改革を強力に後押ししている。
その時に、日本経団連の政治的影響力の強化とはどういう意味を持つのか。政治を動かして規制改革を進め、経済の市場化を実現するというのなら納得できる。
しかし、実際に経済界が政治に要請するのは企業減税であり、さまざまな優遇措置の新設あるいは維持である。日本経団連の政治的影響力がそうした方向に発揮されるのであれば、「官から民へ」ではなく、「民の官への依存」の拡大になる。政治献金の復活は、小泉改革の合言葉とは逆の方向に働きかねない。
また、日本経団連は改正独禁法の国会提出に最後まで抵抗し、最終的にカルテルや談合に対する課徴金を原案より引き下げた。資本主義、市場原理、法令順守を掲げる日本経団連が競争政策の強化に抵抗するのは、本音は別にあることを示している。しかも、その抵抗の手段として、自民党の事前審査制という古い体質を利用した。
その直後に鋼鉄製橋梁(きょうりょう)の談合事件が検事総長に告発され、刑事事件になった。談合には日本経団連の有力メンバー企業も加わっていた。さらに談合は、旧日本道路公団も関与する官製談合であることが明らかになり、ここでも民の官への依存が示された。
奥田会長がグローバルな視野を持つ改革派の経営者であることは疑いない。しかし、日本経団連にはグローバルな市場での競争に参加していない企業も加盟している。奥田会長も、そうした企業の声を無視はできない。「官から民へ」を推進する日本経団連は、内部に抵抗勢力を抱えた団体でもある。民間企業の集まりだから改革に積極的という保証はない。
次期会長に内定した御手洗氏は、キヤノンの生産現場からベルトコンベヤーを追放した。少人数で製品を一気に完成させる「セル生産方式」を全社的に採用し、大幅な生産性向上とコスト削減を実現した。日本経済に必要なのは「内需を創造する企業の努力」というのが持論である。
日本経団連会長には、2代続けてグローバルな視野を持つ改革派経営者が就任する。しかし、会員企業の意識が変わらなければ「民の官への依存」を拡大し、競争政策に抵抗する今の体質が変わることはないだろう。会員企業の意識改革は次期会長の課題でもある。