81年前、国内初の本格的な球場として完成した阪神甲子園球場が、初めて全面改修されることになった。阪神電鉄幹部は「数年前にはドーム化する案もあった」と打ち明けるが、社内論議を尽くした末、外観に大きな変更を加えないことに決まった。保守的にも見えるが、実際は現在の「ボールパーク」の流れに沿った決定と言える。
ドーム球場は65年に完成したアストロドーム(米国テキサス州)が最初だった。雨の多い日本では、安定した興行につながる点が着目され、88年完成の東京ドームを皮切りに次々と建設された。だが、90年代に入り米国では逆に「屋外」への回帰が進んだ。ドームは開放感がない上、「風による落球や不規則なバウンドが減り、野球本来の魅力を損なっている」と、オールドファンの反発を買ったからだ。ドーム球場につきものの人工芝が、ひざへの負担から選手寿命の短縮につながると、球団側からも敬遠された。
外観についても近年、米国で次々と新築された球場は落ち着いた色調の「クラシックタイプ」が目立つ。改修の参考に、甲子園の揚塩健治球場長らが赤レンガ造りのカムデンヤーズ球場(米国メリーランド州)など7球場を視察。西川恭爾社長は「個性、特徴を重視した球場が多く、甲子園もアイデンティティーを大切にしたい」とツタや銀傘を残す結論に至った。
実際、伝統の重みと郷愁が、野球の魅力の一つと考えるファンは多い。日米の野球史に詳しいノンフィクション作家の佐山和夫さんは「野球は他のスポーツにはない歴史がある。甲子園の古さも売り物の一つ。補修しながらも、原型は残していけばいい」と歓迎。その上で「歴代の甲子園出場校のプレートを目立つ位置に設置するなど、歴史を後世に伝え、リピーターを増やす努力をして欲しい」と注文する。
残る課題は「内野を芝生にするかどうか」--。阪神電鉄は「改修とは切り離して検討する」と先送りした。“甲子園の土”として定着している黒土の維持を含め、関係者やファンの論争を呼びそうだ。【加藤敦久】