従業員のチームワークや顧客からの評判、社会への貢献度など、財務諸表ではわからない企業の価値を「知的資産」として開示しようという動きが始まっている。経済産業省が、知的資産の情報開示のためのガイドラインを公表。これに基づく企業の開示も始まった。短期の業績動向を重視する米国型の企業評価手法とは一線を画し、伝統的に日本的経営の強みとされる分野をきちんと開示する仕組みを作ることで、企業の長期的な成長を後押しする。
知的資産は、企業の長期的な活動で蓄積され、将来の成長の源泉となる無形の資産のこと。同省は、有価証券報告書など過去の業績を説明する資料だけでなく、これら将来の成長性を判断する情報の開示を進めることが、投資家が企業価値を的確に判断するために不可欠と判断。開示のガイドライン作りを進めてきた。
同ガイドラインでは、まず経営者の「経営哲学」を明示し、企業の現状認識や将来目指す姿について記述したうえで、それを裏付けるような指標の開示を求める。具体的には、「従業員1人当たりの能力開発費」や「社内改善提案制度の有無」といった社内体制や、「クレーム件数」「顧客満足度」など企業の客観的評価、「リスク情報の公表実績やそのスピード」など危機管理体制など、35項目を列挙した。
これを受け、ジャスダック上場のインターネット情報サイト運営会社「オールアバウト」が10月、初の知的資産経営報告書を公表。サイト編集に協力する専門家数や、従業員の経営理念共感度、サイト閲覧者のイメージ調査結果などを提示した。日本政策投資銀行も、環境や地域への貢献活動をまとめた「社会環境報告書」を、05年度から「社会環境・知的資産報告書」に改題。人材の育成方法や人材特性、同行が開発した先駆的な融資手法などを報告した。
海外では、すでにドイツ、デンマークがガイドラインを作成。国際会計基準審議会も知的資産の開示基準について検討を始めるなど、欧州主導で開示を義務化する機運が高まっている。経産省知的財産政策室は「知的資産開示は、数字に表れない価値を重視する日本的経営のよさをアピールするきっかけになる。今後は国際的な基準作りにも参加し、日本の意見を反映させたい」と話す。【坂井隆之】
◆「知的資産経営報告書」で開示する項目例◆
【経営スタンス】
・経営者による社内情報発信回数
【選択と集中】
・主力事業の営業利益に占める割合
・不採算部門の見直し実績
【対外交渉力】
・新規顧客数の対前年伸び率
・顧客満足度
【技術革新、スピード】
・売上高対研究開発費
・新製品比率
【チームワーク】
・社員の転出比率
・従業員満足度
【リスク管理・企業統治】
・被買収リスクとその対策
・リスク情報の公表実績
【社会との共生】
・環境関連投資額
・企業イメージ調査結果