ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の最新作「ある子供」が、12月10日から東京・恵比寿ガーデンシネマを皮切りに全国公開される。この作品は、本年度カンヌ国際映画祭でパルムドール大賞を受賞し、99年の「ロゼッタ」に続く2度目の受賞という快挙を成し遂げた。ダルデンヌ兄弟監督がこのほど来日し、自作について語った。[上村恭子]
主人公は20歳の青年ブリュノと、18歳の恋人ソニア。子どもが生まれたばかりの2人だが、定職についていない。その日暮らしのような2人の間に、大人としての自覚ときずなは生まれるのだろうか。映画の着想は、町でベビーカーを乱暴に押す若い女性を見かけたことだったという。
「最初、ベビーカーの中にいる赤ちゃんの父親を女性が探している、というストーリーが思い浮かびました。ところが、私たちの方が先に父親を見つけてしまって、その男を主人公にすることにしました。男が恋人の愛によって変わり、果たして父親になれるのだろうか。この作品は、父性の話であると同時に、ラブストーリーでもあるといえるでしょう」
その若い父親・ブリュノ役に、「イゴールの約束」で主人公イゴールを演じたジェレミー・レニエを再び起用。ダメなヤツだが憎めない雰囲気を好演している。
「最初からレニエの起用を考えていたわけではありませんでした。あるシーンを考えているときに、彼のイノセントな笑い方を思い出したのです。レニエに会ってみると、14歳のころと同じ笑い方をしていました。どこか気弱なところがある彼の笑顔は、役にピッタリだと思いました」
登場人物は“大人になりきれていない若者”という設定。社会的に弱い立場にある若い人に焦点をあてているところは、ダルデンヌ監督作品の特徴だろう。若者を描く理由についてこう語る。
「若者は、変わっていける可能性を持っている。社会の変化をおそれるあまりに、人々は若者をないがしろにしてしまう。映画の舞台である町は、70年代までは鉄鋼業で栄えたが、今では産業も没落し、若者の仕事が少なくなっている。若者は何もすることがなく、町をブラブラしたり、あげくの果てに麻薬中毒になってしまうケースもあります」
監督の母国ベルギーでは、若年層の失業率は20%だという。日本でも「ニート」が社会問題となる中、先進諸国が抱える共通の若者の問題が映画の中に描かれている。
さらに監督は言う。「社会の中心にいない人たちから見た方が、全体がよく理解できます。私たちは、むしろそういう人たちが好きなのです」