「全国小売酒販組合中央会」の年金資金の不正流用事件で、使途不明になった約2500万円を着服した疑いが強まったとして、警視庁捜査2課は16日、同会元事務局長(49)を業務上横領容疑で逮捕する。中央会を巡っては、年金事業を破たんに追い込んだ144億円の海外投資について同元事務局長らが背任容疑で告発されているほか、同会の政治団体「全国小売酒販政治連盟(酒政連)」が政治資金収支報告書に架空支出を計上し、政界への裏金を捻出(ねんしゅつ)していた疑惑も浮かんでおり、同課は不明朗な経理の全容解明を進める。
調べでは、元事務局長は99年10月と12月の計2回にわたり、「脱退一時金」の名目で、年金資金から計約2500万円を着服した疑いが持たれている。脱退一時金は、年金を途中解約した加入者に支出する払戻金で、元事務局長はこの名目で年金資金を自分が管理する口座に振り込み、不正流用していた。
問題の口座は「スズキシュウイチ」という架空名義の口座で、91~99年、約30回にわたり計1億9700万円が振り込まれていた。この振り込みのほとんどに元事務局長が関与した疑いがあり、同会は時効前の約2500万円に絞って業務上横領容疑で告訴していた。
さらに同会の年金事業は、危機的な状況にあった02年12月、カナダの投資会社の社債を約144億円で購入した投資が失敗し、事業が破たんに追い込まれた。この投資については「元事務局長らが理事会に諮らず独断で決めた」として、中央会傘下の支部長が背任容疑で警視庁に告訴した。
さらに酒政連を巡っては、01~02年の政治資金収支報告書に計約8200万円の架空支出を報告していたことが判明している。架空計上で捻出した裏金が、国会議員に裏献金や接待費として提供された疑いも出ている。【三木陽介、石丸整】
◇酒政連 小杉議員の元秘書雇う
「全国小売酒販組合中央会」の政治団体「全国小売酒販政治連盟(酒政連)」が00~01年、自民党の小杉隆衆院議員(東京5区)の元私設秘書(38)を「政策顧問」として雇い、月二十数万円の報酬を払っていたことが分かった。酒店の出店規制の緩和を阻止するため酒政連が政界への働きかけを強めていた時期だった。
関係者によると、元秘書は99年5月から小杉氏が落選した00年6月まで、小杉氏の事務所に勤めた。00年9月ごろから1年数カ月の間、酒政連に「政策顧問」として雇われ、中央会元事務局長(49)とともに政界工作を担当した。報酬は総額300万円前後になるという。
酒政連をめぐっては、01~02年の政治資金収支報告書で、偽造領収書を使った計約8200万円の架空支出の記載が判明している。裏金を捻出(ねんしゅつ)するためとされ、元秘書は、元事務局長とともに白紙領収書を知人の会社などから集めるなど架空支出の計上にかかわっていた。元秘書は毎日新聞の取材に「元事務局長から頼まれて、白紙領収書を何枚か集めたことはある」と話している。
小杉氏は99年に自民党国会議員約190人が結成した「規制緩和を見直す会」の筆頭副会長のポストに就いていた。酒政連が同会の議員らを集めて頻繁に開いた「勉強会」と称する会合にも参加した。小杉氏については、落選中の00年7月に酒政連から300万円の献金を受けたが収支報告書に記載せず、今月10日に訂正した経緯もある。
酒政連関係者は「落選した小杉氏を応援する気持ちで元秘書を雇った」と説明する。一方、小杉氏の事務所は「元秘書を雇うようにこちらからお願いしたことはない」と話している。【三木陽介、石丸整】