試合終了直後、ブラジルのパレイラ監督は、テクニカル・ディレクターのザガロ氏と堅い握手をかわした。
「初戦は100%の状態で臨む必要はない。今は60、70%の力だが、これは予定通りだ」
63歳の名将は、老かいだった。決勝まで7試合戦うことを見据えている、と宣言したようなものだ。
はったりではないだろう。事前合宿地のスイスで練習を開始したのは、5月24日と遅かった。長いシーズンが終わったばかりの欧州リーグで活躍する選手が大半とあって、まず疲労回復に重点を置いていたのは明らかだ。故障明けのロナウドは太め残り。ロナウジーニョも、疲れは取れ切っていないように見えた。
それでも勝った。MFロナウジーニョ、FWロナウドら「魔法の4人」の異名を取る前線に完全な自由を与える一方、後方は規律正しい守備を整えたことが大きい。
94年米国大会でも、ブラジルを優勝に導いた。だが、守備偏重の戦術がブラジル国民の不興を買い、実績ほどには評価されなかった。
今年4月、ブラジルの大ベテランテレビ解説者、クラウジオさん(74)に、面白いエピソードを聞いた。パレイラ監督は「94年時、ブラジルは24年間、W杯優勝から遠ざかっていた。優勝しなければという義務感が働き、面白くないサッカーをした。ハイレベルな選手がそろった今回は、素晴らしい試合ができる」とクラウジオさんに語ったという。
個人的にも連覇がかかる今大会で、魔法の4人が即興で音楽を奏でることを許しているのがいい証拠だ。指揮官の心にも期すものがある。【安間徹】
毎日新聞 2006年6月14日 10時59分