○ブラジル3-0ガーナ●
◇できなかった「美しいサッカー」…ブラジル
2試合続けて大量得点で快勝したブラジルだったが、パレイラ監督は渋い表情だった。「スコアは試合の内容を表していない。非常に難しかった」。ボール支配率、シュート数ともガーナを下回り、点差ほど展開は圧倒できなかったからだ。
ロナウドの記念ゴールで先制したものの、ガーナの勢いに押されて防戦に回った。前半42分にはCKからガーナ・メンサのヘディングをGKジダが右足で何とか止める危ない場面もあった。それでも「らしさ」を発揮したのは前半ロスタイム。自陣でボールを奪取したルシオがそのまま攻め上がり右へ展開。スピードに乗ったカウンターで最後はカフーのクロスをアドリアーノが足で押し込んだ。後半もピンチはあったが、ゼロベルトのダメ押しゴールが決まった。
勝ったことだけでは評価されないのは、ブラジルならではだ。パレイラ監督が「パスミスがあった」と自ら振り返ったように、スピードに乗ったボール回しで相手を崩すブラジルらしい「美しいサッカー」は、この得点ぐらい。ロナウドはゴールを挙げたが復調過程で、カカ、ロナウジーニョ、アドリアーノによる「魔法の4人」と言われる攻撃陣の威力が十分に発揮できていない。
だから、会見では国内メディアから「なぜ美しいサッカーができないのか」と毎試合ごとに厳しい注文が出ている。さすがに、この日はパレイラ監督がきっぱりと反論した。「なぜブラジルだけが美しいサッカーをしなければならないのか。記録にはサッカーの美しさは残らない。優勝回数だけが残るのだ」。2度目となる連覇への強い意欲である。もっとも試合を重ねるごとにチームが固まってくるのが、いつものブラジルなのだ。【小坂大】
◇ゴールは遠かった…ガーナ
18本のシュートを放ちながらガーナのゴールは遠かった。アフリカ勢でただ一つベスト16に残ったガーナのベスト8入りの夢は霧消したドゥイコビッチ監督は「今大会の戦いぶりを誇りに思う。次はさらなる活躍が期待できる」と話した。
攻撃では、ブラジルに劣らないスピードで何度も決定機を作った。シュートの精度が敗因の一つでもある。加えて、守備的MFのエシエンを出場停止で欠いたことが響いた。昨年、イングランド・チェルシーがフランス・リヨンからアフリカ選手としては過去最高となる約54億円の移籍金で獲得した選手だ。
代わりはE・アッドが務めたが、豊富な運動量と攻撃へのサポートでチームを支えていた屋台骨の欠場は、攻から守に切り替わった時に痛かった。ガーナが躍進した理由に、この大会では珍しくなった激しいプレッシングがある。その圧力がエシエンの不在で弱まったからだ。
ブラジルの3得点は、いずれもカウンターで、ガーナから見て、守備的MFの前のスペースから前線に展開されたもの。ドゥイコビッチ監督は「ブラジルはチャンスを逃さなかった。一瞬でもスキを与えればやられる。そこを突かれた」と振り返った。万全ではないとはいえ、破壊力のあるブラジルの攻撃陣に好球を配給されては厳しい。
エシアンや攻撃の基点となったアッピアは01年世界ユース選手権で準優勝したときの中心選手。デュイコビッチ監督はセルビア・モンテネグロ出身で、この国の多くの監督がそうだったように04年に就任後、選手へ組織力を植えつけた。個人技に組織力は、アフリカ勢躍進のキーワードだ。まだ未完成の感はあったがエシアンは「われわれは技術が高いだけでなく、戦術こなせることを証明しなければならない」と語った。【小坂大】
毎日新聞 2006年6月28日 9時44分