○フランス3-1スペイン●
◇続くジダンの「最後の冒険」…フランス
一瞬とはいえ、全盛期の華麗なステップワークがよみがえった。
後半ロスタイム、フランスの司令塔ジダンはスルーパスで左サイドを抜け出し、ドリブルでペナルティーエリアに進入すると、右足1本でためて切り返した。巧みなフェイントに体勢を崩されたプジョルをかわし、ゴール左隅にダメ押しの3点目を決めた。
スペインは、04年夏の欧州選手権後に就任したアラゴネス監督のもと25戦無敗を誇ってきた。だが、ジダンの一振りで、「無敵艦隊」は完全に沈んだ。直後にタイムアップ。4日前に34歳の誕生日を迎えたベテランは、一足先にベンチに退いていたアンリとがっちり抱き合った。
「スペインには苦しめられた。でも、まだ冒険は続く」
今大会を最後に現役を引退するジダンは言った。1次リーグG組韓国戦で、大会2度目の警告を受け、決勝トーナメント進出がかかった最終トーゴ戦は出場停止に追い込まれた。不完全燃焼のまま、現役生活にピリオドを打つ可能性もあったが、仲間の踏ん張りに救われた。今度はジダンが応える番だった。
ここ1、2年で体力が急激に衰え、ボールさばきも粗くなった。スペイン戦でも後半は、試合から消える時間が長くなった。だが、後半38分、鋭いカーブをかけた右FKでDFのクリアミスを誘い、ファーサイドに流れたボールをビエラが頭で押し込んで勝ち越し。このプレーをきっかけに、冷えかけた炉に再び火が入った。
ロスタイム突入直後には、熱くなりすぎて警告も受けた。だが、その直後に勝利を確実にする得点を決めた。準々決勝は98年大会決勝の再現となるブラジル戦。ジダンの「最後の冒険」は、クライマックスを迎えつつある。【安間徹】
○…フランスはMFビエラがトーゴ戦に続く2試合連続ゴールを決めた。同点のまま迎えた後半38分、ジダンの右FKからスペインDFのクリアが流れたボールを頭で押し込んだ。前半終了直前には、リベリとの息のあった連携で同点弾をアシスト。「今まで代表はさまざまな批判にさらされていたが、それは間違いだと証明できた。決勝までの道のりは長いが、今の我々ならやり遂げられると信じている」。中盤で攻守のつなぎ役を果たす30歳のベテランは、力強く宣言した。
◇勝負強さに欠けた…スペイン
後半ロスタイム、フランスのジダンが3点目を決めると、スペインの応援席では早々とスタジアムの出口に向かう列ができた。
アラゴネス監督は言う。「フランスの2点目で攻撃のリズムが狂った」。後半38分、ジダンのFKから勝ち越し点を許す。残り7分。時間はある。にもかかわらず、攻めに転じられない。むしろ逆襲を受ける。CKから激しく攻めるのもフランスだった。
「決勝トーナメントでは、勝負強さに欠けた。常勝国に少しでも近づきたかったが、フランスも、そういう国だった」。リードされている時点も、同点になっても、そして勝ち越しても90分間ゴールを目指したフランスのプレーを、アラゴネス監督はそう振り返った。
1次リーグは完ぺきに近い戦いを見せた。豊富なタレントを誇る攻撃サッカーを見せつけた。だが、この日、中盤でパスを回すことはできても、フランスの守備陣に攻撃パターンを読まれ、その先へつなげられない。1次リーグ3得点のフェルナンドトレスもシュート1本に終わった。
リーグでは、世界をリードしながらも、代表となると、選手の資質と結果がなかなか結びつかないスペイン。「常勝国」どころか、50年大会の4位(出場13カ国)という最高成績に今回もまた近づけない結果に終わった。【辻中祐子】
毎日新聞 2006年6月28日 10時11分 (最終更新時間 6月28日 11時08分)