【テヘラン春日孝之】イラン核問題の焦点は米欧など6カ国が提示した包括見返り案にイランがどう回答するかだ。しかし、国連安保理の制裁警告決議やレバノン情勢の推移がイランの判断にどのような影響を及ぼすか不透明な要素が多い。
イランのモシャイ副大統領が毎日新聞との会見で述べた通り、安保理決議はイランの目には「不合理」と映る。イランが「8月22日までに行う」と表明していた見返り案への回答を待たずに圧力を強めたからだ。
イランが見返り案に「前向きな姿勢」を示したのは、米国が提案国に初めて加わったことで、軽水炉建設支援などの見返りに「確証」が得られ、対米関係改善に道を開くとの期待感があったからだともみられる。だが、決議採択によってイラン政権内部で米国の「真意」への疑念が広がり、「回答拒否の言い訳」にする可能性も出てくる。アフマディネジャド大統領は「ムチを振り上げるなら、我々は間違いなく拒否する」と述べている。
イラン保守政権の内部では核拡散防止条約(NPT)から脱退すべきだと主張する強硬派から、対米協調志向の穏健派まで意見の相違がある。最終意思決定権は最高指導者のハメネイ師が握っているが、決定までの過程ではさまざまな意見を集約しているとみられている。安保理決議についてテヘランの外交筋は「決議採択で回答内容が根本的に変わるとは思えないが、影響を与える可能性はある」と見る。
一方、レバノン紛争ではイスラエルを擁護する米国が国際社会の批判の矢面に立たされている。イラン政権内で対米協調を望まない勢力にとっては米国の威信をさらに低下させる絶好の機会だ。
イスラム教シーア派を国教とするイランは米軍が駐留するイラクのシーア派主導政権に対しても、レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラにも大きな影響力を持つ。イランは米国に「助け船」を出すことも、さらに紛争の泥沼に引きずり込むことも可能な立場にある。
毎日新聞 2006年8月2日