厚生労働省がまとめた00年の「都道府県別生命表」を初めて見た時は、いささか驚いた覚えがある。とりわけ最長寿県と思っていた沖縄の男性の数字である。
並んでいる数字を追って都道府県別の平均寿命の順序を確認すると、男性のトップは長野県の78・90歳、次いで福井県の78・55歳、そして沖縄の男性はと言うと、全国平均の77・71歳をも下回る77・64歳で、なんと26位。80年代1位だったことを思うと、これはやはり驚くべきことであった。
沖縄の男性に起きた異変について、専門家の多くは食生活の変化を挙げ、野菜や魚を中心とした食事より、高たんぱく・高脂肪食の欧米型の食事をとる人の増加が原因とみていた。
しかし食事の欧米化は日本人全体に言えることだから、専門家の間ではその時すでに日本人の平均寿命も短くなっていくのではないかという声があった。
果たして、と言うべきかどうか、先日、厚労省が発表した05年の日本人男性の平均寿命は、前年より0・11歳短い78・53歳で、国際比較では32年ぶりにベスト3の座を明け渡した。女性は21年連続世界一をキープしたものの、平均寿命自体は前年より0・10歳縮んでいた。
ぼくは数字を前にしてよく思う。全体をとらえた数字をいくら見ても、その背後に潜む事情まではわからない。数字に秘められた「真実」を読み取るなら、全体より部分の数字を見るべきだ、と。
これは「平均値に明日はない」という経済の格言と同じことで、たとえば00年の平均寿命をとらえてもそれ自体は依然として長寿国日本を表すものでしかない。しかしその数字に日本の「明日」は示されておらず、むしろその段階で問題にすべきなのは沖縄の男性の数字であったわけだ。
その流れで見るせいか、男女とも平均寿命が前年より短くなった05年の数字もやはり気になるのだが、厚労省の受け止め方は楽観的だ。平均寿命短縮の原因にはインフルエンザと自殺者の増加が考えられるという。
つまりは一時的な現象というわけで、「平均寿命が今後のびていく傾向に変わりはない」とみているのだ。
そうあってほしいと願うが、さてどうなのだろう。細部の数字の分析にぬかりはないのだろうか。(専門編集委員)
毎日新聞 2006年8月2日