岐阜県揖斐川町に建設中の徳山ダムについて、事業主体の水資源機構が試験湛(たん)水開始予定日を今月25日としたことが旧徳山村民に波紋を広げている。ダム周辺の公有地化事業やアクセス道の確保といった課題の解決にメドが立たないままの“見切り発車”の面が大きいからだ。旧村6集落の代表が8日、湛水に抗議したのに続いて、最大集落の徳山地区も12日、同県や機構に抗議する。
10日夜、同県本巣市文殊の集会所に、徳山地区の共有山林を管理する徳山区共有財産管理会の役員16人が集まった。幅約10メートルの白い横断幕には「9・25 試験湛水反対」の赤い文字。「わしらの思いを知ってもらおう」。表立った抗議活動を控えてきた同管理会が方針転換した。
同県は公有地化事業でダム周辺の山林の買収を進めるが、徳山地区では21筆の土地で水没地と非水没地を分割する「分筆登記」が未完了。面積が確定しないため買収が滞り、地権者は売りたくても売れない状況だ。だが県は買収期間を07年度末までとしている。管理会は「湛水されれば、現地調査も難しくなる」と湛水前に登記を完了するよう求めているが、とても間に合わない情勢だ。
他地区と共通の問題になっているのは、旧村民が求めている私有山林へのアクセスの確保。もともと機構と旧村が結んだ公共補償協定で付け替え道路建設が保証されていたが、01年3月、機構と旧村を引き継いだ藤橋村の間で旧村民に無断で協定を一部変更、道路建設は中止され、その費用で公有地化事業実施が決まった。
管理会は12日、県と機構に抗議後、旧村の山林に横断幕を掲げる。管理会副会長の村瀬惣市さん(88)は、「こんなことしてもすぐに解決しないことは分かっている。しかし、(旧村民を無視した機構のやり方は)ひどすぎる」と話す。一方、同ダム建設所の幹部も「(旧村民が)なかなか話を聞いてくれない」とこぼす。試験湛水開始を控え、相互不信は高まり、課題の解決策は見えてこない。【秋山信一】
毎日新聞 2006年9月11日