先端ファッションが軒を連ねる裏原宿=東京都渋谷区神宮前で17日午後、小林努写す
3大都市圏平均で90年以来16年ぶりに上昇に転じた基準地価。投資が過熱気味の都心部では、新たな「ミニバブル」を思わせる動きも出てきた。「不動産デフレ脱却」ともいえそうだが、地方ではなお、下落幅を広げた地点も少なくない。地価を巡る現状を追った。【増田博樹、種市房子、小倉祥徳】
◆「ウラハラ」急騰…転がる土地、変わる街
東京都渋谷区のJR原宿駅東側に広がり、若者が小さな店舗で独自文化を発信する「裏原宿」。「ウラハラ」の愛称で親しまれる同区神宮前3の住宅地地点の上昇率は全国7位で、25%(前年7%増)と急騰した。不動産業者らによる土地転売が盛んになり、街の顔も変わり始めた。
裏原宿は約10年前、資金力のない若者が手作り品を売る場として、安価な貸し店舗エリアが出現したのが始まり。現在は約2キロの原宿通りを中心に約600店舗が靴や洋服、装飾品などを販売する。
裏原宿を歩くと、中心から約300メートル離れた場所に更地(約170平方メートル)と空き店舗(鉄骨3階建て、延べ約520平方メートル)がほぼ隣り合っていた。更地にはひざ丈の草が生い茂る。これらの土地は、1年4カ月の間に3回も転売された。
港区の不動産会社が04年9月に出版社から購入、翌年11月には新宿区の不動産会社へ、さらに2カ月後に千代田区の不動産運用会社に所有権が移った。2カ月で売った会社の担当者は「需要と供給が合ったら売るのが合理的」と転売目的の土地取得を認める。業界関係者は「バブル経済時代のような慌ただしさ」と話し、地元業者も「不動産業者が値を高くしている」と語った。
街は変容を余儀なくされる。隣り合う表参道には数年前から有名ブランドが続々と進出し、今年2月には複合商業施設「表参道ヒルズ」がオープン。裏原宿の新店舗ビルも法人ブランド向けだ。約10平方メートルの店舗で洋服などを売る池上誠也さん(45)は「個人オーナーは、目立たない2階や脇道で出店するようになった」と話した。
◆マンションブーム
新駅計画で都心へのアクセス向上が期待される武蔵小杉(川崎市中原区)では、500戸超(平均5500万円)の大型マンションが即日完売し、東京・赤坂の「億ション」も即日売り切れた。こんな話が連日聞こえるほどマンション市場は活況を呈している。
大手不動産関係者は「離婚増や未婚化が進み世帯数はむしろ増える」と自信を見せる。こうした売り手の強気の姿勢を反映し、業者の間では地価上昇を見越して販売時期をわざと遅らせる「売り惜しみ」が広がっているという。
流れは如実に数字に出た。今年8月の首都圏発売戸数は前年同月比40・5%減と、ブームにもかかわらず大幅な減少となったのだ。業者は否定するが、集計した不動産経済研究所(東京・新宿)は「後で少しでも高く売ろうという、まさにバブルの発想」と指摘した。
今秋以降、ゼロ金利解除に伴う金利上昇の影響も受けて、新規購入者の負担は重くなるかもしれない。
◇地方は2極化
なぜ都市部を中心に地価が上向いているのか。背景には、景気回復に伴うオフィス、マンション需要の増加と不動産投資の活発化がある。
不動産大手の三菱地所によると、同社の全国オフィス空室率は1.89%(6月末)と01年4月以降最も低く、テナントの移転や拡張要望にすぐには応えられない状態という。別の不動産関係者も、最近では景気回復に伴う事業拡大の影響で企業の増床需要が強く、「10%程度の賃料値上げも比較的スムーズに進んでいる」と説明する。
不動産への投資を後押ししたのは、不動産投資信託など証券化の進展だ。超低金利時代にあって、他の金融商品に比べ、高利回りが期待できるとあって、海外からの大量の資金が流入しているほか、証券化で投資単位が小口化できるために、幅広い層からの投資が進む。不動産証券化協会によると、6月末時点の上場不動産投資信託の運用資産額は4兆4198億円に達し、前年同期の1.7倍になった。関係者は「米英に比べ日本の土地はまだ割安」と投資が今後も増えるとみる。
また今回の大きな特徴は地方の拠点都市でも地価が上昇に転じた点だ。商業地でみると、道県庁所在地では札幌、仙台、静岡、大津、福岡の5市で新たに上昇に転じた。オフィス需要などに加え、大都市に比べ地価が低い分、投資利回りが高く、1地域に投資が集中するリスクを分散させようという資金が流入していることが背景にある。
一方、北海道や東北、四国、九州南部などの中規模都市では、マイナス幅が前年より拡大した。人口減少に加え、郊外型の大型商業施設の進出で中心市街地が衰退しているなどの影響が大きい。
不動産関係者は広がる2極化に危機感を強めており、今後の課題として「全国レベルで地域再生が必要」(岩沙弘道・不動産協会理事長)と指摘している。