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iPS細胞・研究最前線:/下 将来の臨床応用へ、続く試行錯誤

作者:未知  来源:每日新闻   更新:2008-6-9 17:13:13  点击:  切换到繁體中文

 

◇国際協力体制づくり、議論始まる
 人工多能性幹細胞(iPS細胞)からさまざまな細胞を作り、病気の治療に利用する--。現在、描かれている再生医療のビジョンを現実化しようとした場合、どんなハードルがあるのか。研究者たちは細胞の実像を探る基礎研究に加え、将来の臨床応用を視野に入れた試行錯誤も続けている。一方で、iPS細胞を人類共有の資産とするため、国際的な協力体制をつくるための議論も始まった。【須田桃子、野田武】

 ◆iPSバンクの必要性

 5月に京都で開かれたiPS細胞国際シンポジウム。開会直後に壇上に立った山中伸弥・京都大教授は、「iPS細胞バンク」設立の必要性を語った。

 バンクは多くの人から提供されたiPS細胞そのものと、そこから分化させた各種の細胞を集め、保管しておくものだ。本来、iPS細胞は病気やけがをした患者自身の細胞から作ることで、拒絶反応を避けた再生医療につなげることができる。

 しかし実際には、そんな手順を踏めないケースも多いと想定される。例えば、交通事故などによる脊髄(せきずい)損傷は現状では、けがをしてから9日目ごろに神経細胞のもとになる神経幹細胞を移植しなければ、症状の回復が見込めない。だが、本人のiPS細胞を作成するには数カ月かかってしまう。

 ◆50種類で9割カバー

 iPS細胞バンクの具体像を示したのが、京都大の中辻憲夫教授(発生生物学)。日本人に多い白血球の型(HLA)を分析し、「50種類のHLAのiPS細胞を用意すれば、日本人の9割で拒絶反応をほぼ回避か、大幅に軽減できる」という試算を示した。

 拒絶反応の有無や強さは主に、移植した細胞や臓器と、患者の体のHLAが適合するかで決まる。中辻教授と東京大の徳永勝士教授(人類遺伝学)らは、拒絶反応の強さにかかわる三つのHLA遺伝子に着目した。

 国内の臍帯(さいたい)血バンクのデータから、日本人に多い3遺伝子の組み合わせの分布を計算すると、上位50種類の組み合わせで、90・7%の日本人をカバーできることが分かった。この中で最も珍しい第50位の組み合わせで日本人3万人中1人、最多の組み合わせは3万人中199人となる。50種でカバーできない残り約1割の人にも、三つのうち二つの遺伝子が適合するiPS細胞を使えば、拒絶反応の大幅な軽減が可能だという。

 中辻教授は「がん化などの恐れのない安全なiPS細胞の作成技術の確立が大前提だが、50株のiPS細胞バンクを作れば、日本人のほぼ全員が恩恵を受けられる」と話す。

 ◆国際協力の推進を

 日米欧のほか、中国、韓国、オーストラリアなど各国から幹細胞研究の第一人者が集った国際シンポではiPS細胞研究の未来を話し合うパネルディスカッションも行われた。議論の焦点の一つが、iPS細胞や胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を使った再生医療の安全性をいかに確保するかだった。

 iPS細胞やES細胞からさまざまな臓器の細胞を作り、患者に移植する--というのが、再生医療の基本的な手法だ。しかし現時点では、作りたい臓器の細胞だけを、確実に作り出す技術は確立していない。移植した細胞が、想定外の細胞に分化し、がん化する危険性が依然ある。

 パネルディスカッションで、西川伸一・理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)副センター長は「(安全性確保に向けて)国際的に協力できることはないか」と問題提起した。マックス・プランク分子医薬研究所(独)のハンス・シェラー所長は「(iPS細胞が)がん化しない段階まで分化が進む仕組みを理解することが必要。そこを把握できれば、実用に近づくだろう」と述べた。また若年性糖尿病研究財団(米)のロバート・ゴールドスタイン科学部長は「各国の研究者が協力してデータを出し、それをもとに各国政府が安全性評価を行えれば有益だ」と提案した。

 iPS細胞の登場で、ES細胞が不要になるわけではないとの指摘もあった。iPS細胞を使い、遺伝性貧血やパーキンソン病の治療を目指しているルドルフ・イェーニッシュ米マサチューセッツ工科大教授は「ヒトのES細胞とiPS細胞が、成長した後も含めて本当に同じ能力かは、まだ分かっていない。比較のためES細胞の研究が今後も必要だ」と強調した。

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 ◇一般向け解説本、売れ行き好調
 ヒトiPS細胞について、一般向け「解説本」の出版が相次いでいる。売れ行きも好調という。

 科学雑誌「ニュートン」は、08年6月号で「万能細胞」を特集した。山中教授と、同時にヒトiPS細胞を作成したジェームズ・トムソン米ウィスコンシン大教授のインタビューを掲載。都心のビジネス街でよく売れ、通常の3~5倍に達した店もあるという。

 集英社は山中教授とウイルス学の権威、畑中正一・京都大名誉教授の対談をまとめた「ひろがる人類の夢 iPS細胞ができた!」を発売。山中教授の生の声を収録した。「iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?」(日本実業出版社)は、科学技術振興機構のiPS細胞リポートも手がけた田中幹人さんが研究を解説。“iPS細胞誕生秘話”も盛り込む。中畑龍俊・京都大iPS細胞研究センター副センター長が監修した「iPS細胞って、なんだろう」(アイカム)は細胞のカラー写真を豊富に掲載している。【奥野敦史】

毎日新聞 2008年6月8日 東京朝刊

 


 

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