オランダで育った私は、これまで何度か外国の友人たちにアムステルダムを案内してきた。1998年のこと、フィナンシャル・タイムズ紙の同僚を連れて週末にアムステルダムを訪れた。
午後、同僚たちが自転車専用道路を歩いていると、自転車に乗った地元住民が友人たちに行く手を塞がれ、いら立ってベルを鳴らした。自分たちが自転車専用道路を歩いているとは知らない──いや、そもそも自転車専用道路があるということを知らないのんきな友人たちは、ベルを鳴らすこの男性を無視した。ついに私の友人たちに罵声を浴びせながら、彼は強引に追い越していった。すぐにかっとなるたちの私は、自転車の後輪を蹴とばした。だが、この男性住民が怒ったのは当然だった。土地の事情を知らない観光客が、彼の日々の暮らしを邪魔していたからだ。
■20年弱で観光客が2倍に
アムステルダムの街中=AP
この自転車の男性が直面したような問題は、ますます悪化している。2013年にアムステルダムを訪れた外国人観光客は、1998年の2倍近い840万人に上った。アムステルダム以外の欧州の美しい都市も押し寄せる観光客に疲弊し、観光客との摩擦は深刻になるだろう。
観光に関する国際機関、世界観光機関の予測によれば、2010年に9億4000万人だった外国を訪れる観光客の数は、2030年には18億人にまで増えるという。アムステルダム在住の南アフリカの建築家、スティーブン・ホーズ氏は、このほど雑誌を発刊し、「これ以上外国人観光客が増えたら、アムステルダムはどうやってバランスを保つのか」と問いかけている。
オランダの作家、ジェレ・ブラント・コルスティウス氏はこのパラドックスについてこう述べている。「私たちは幸運にも、世界有数の美しい都市に暮らしている。そしてまさにそれゆえに、この町には実に多くの観光客が集まってくる」。たしかに、こぢんまりとしたアムステルダムの町が世界でも一流クラスのレストランや美術館、フェスティバルを維持していけるのは、観光のおかげだ。だがこうした店や施設、催しには観光客が殺到する。アムステルダム国立美術館は押し寄せる観光客でごったがえし、レンブラントの作品を1点ずつゆっくりと鑑賞する暇などほとんどない。浮かれたつ大勢の観光客は、アンネ・フランクの家の周りに行列をつくって有名な隠れ場所を撮影する順番を待ち、撮影を終えるとおもむろに市内のセックスショップを訪れていく。